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49ピッチ目 撤退


「ラズ、すまない、一旦おろしてくれ」


なんとか体を動かすことはできたが、全身に激痛が走っている。


この状態でこれ以上登るのは無理だ。


それに一人だったらまだしも、ラズを連れての登攀になる。


撤退…


それも仕方ない、山は逃げないから。


ラズが二ピッチ目の終了点までおろしてくれた。


「大丈夫か?かなり痛そうだったけど…」


「ダメだ。体が思うように動かない。一旦撤退しようと思う。異存ないな?」


「もちろんだよ。ノボルがいなかったら俺は一人では登れないんだから。まずは体を休めなきゃ」


そうと決まれば行動は早かった。


ロープを放っての懸垂下降。


懸垂下降三ピッチで地上まで降り立つことが出来た。


今回の敗退の原因は何だったんだろうか。


リーゼホルン南壁を登るのは無理なのか?


いや、どこかに必ず登れるルートがあるはずだ。


それに最後の手段として人口登攀も考えられる。


人口登攀とは、人工物を手掛かり、足掛かりにしながら登っていくクライミングスタイルのことだ。


持つところが全くない壁で有効性を発揮し、例えば、壁にドリルで穴をあけてボルトを打ち込み、そのボルトにあぶみを掛けて立ちこむ。


さらにそこから手が届くところに再びボルトを打ち、といった具合で高度を上げていく方法、これをボルトラダーと呼ぶ。


その方法であれば垂壁だし登れないことはないだろう。


しかし俺のスタイルはあくまで自然のままの岩に出来る限りダメージを与えずに登ることだ。


それに人口登攀はどうしても時間がかかるから、長大なルートを登る時にはそのデメリットも大きい。


根本的にリーゼホルン南壁の攻略方法を見直さなければならないかもしれないと感じている。


「もしかしたらこのリーゼホルン南壁、登れないかもしれない。最後まであきらめずに対策を考えてはみるけど、想定が甘かったと言わざるを得ない。ここまでシビアなクライミングを求められるとは想定していなかった。すまない…」


「いいんだノボル。俺はここまで来られただけですごい経験をしたよ。村からも出たことない男が、こんな遠くまで来て誰も登ったことない山を登っているんだ。すごいことだよ。連れてきてくれたノボルには本当にありがとうだよ。それに、また挑戦するんだろ?」


ラズの言葉に目頭が熱くなった。


未踏峰に登ること、難しいルートを登ること、山に登ること、そのことに喜びを見出してくれていることにも感動した。


ラズの中で、登山、クライミングに対する考え方が変わってきている。


「また必ず挑戦するよ。その時はラズ、君も一緒だ。次こそは絶対に登るぞ」


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