43ピッチ目 ジークの実力
急に隊列があわただしくなった。
「北にワイバーンだ!数は…見えるだけで三頭だ!」
砲手が隊列の最前列と最後尾についているバリスタを載せたそりの上でガラガラとバリスタを回す。
最後尾のジークは見事な手際だ。
バリスタをマウントしているのはハンドル式のターンテーブル。
ハンドルを回すとギアが駆動してバリスタが回転する。
既に一本目の矢はつがえられていて引き金を引けばいつでも発射できる状態だ。
「お前ら見てろよ。ワイバーン狩りってのはこうやるんだ」
そう言ってジークのそりは向きを変えてワイバーンの方へと一直線に突っ込んでいった。
両者の距離が見る見るうちに小さくなる。
ワイバーン三頭のうち二頭がジークのそりめがけて突っ込んでくる。
あぶない!
そう思った瞬間だった。
バリスタはマウントしているそりを大きく揺らし矢を発射した。
発射の反動でそりはバランスを崩したが、その崩れたバランスをあえて利用しジークは進行方向を急転換し迫りくるワイバーンの突進を躱した。
一本目の矢は見事に二頭のうち一頭を仕留め、地に伏したワイバーンはそのまま動かなくなった。
仲間をやられて逆上したのか残された一頭はジークのそりを激しく追いかけている。
ジークは手早く二本目をつがえ、ハンドルを回してバリスタをワイバーンの方に向けた。
無我夢中で追いかけてくるワイバーンにじっくりと狙いを定め…
再び放たれたその強烈な一撃はワイバーンの胸に深く突き刺さった。
断末魔の叫びをあげてワイバーンはもだえ苦しみ、こちらも同じく動かなくなった。
「すごい…あっという間に二頭のワイバーンを仕留めてしまった。もう一頭ももう一人の砲手が片付けているし、バリスタ二門ですごいな…」
「そりゃそうさ。ジークはあんな感じだけど実はブラスハイムの狩猟部隊の隊長を務めていたんだよ。あいつが現役のころはまだワイバーンの数もいまより多くて、城壁で戦うだけじゃなく外にでていって戦うことも多かったんだ。いまみたいにね。ジークは当時エースだったんだ」
なるほど、通りで強いわけだ。
狩猟部隊長ってだけじゃなくエースだったとは。
まるで戦闘機乗りみたいだな。
「しかもジークのスキルは鷹の目っていって、人の何倍も目が良くてすごく砲手向きなんだ」
探検隊のメンバーのことを褒められてまるで自分のことのように喜ぶヨルハがちょっと可愛らしく見えた。




