42ピッチ目 ヨルハの姉
ガタガタと揺れていた馬車が今は雪原の上を滑っている。
探検隊の彼らの馬車からそりへの切り替えは見事な手際だった。
雪原に入ってから急激に冷え込み、今の気温はおそらく氷点下だろう。
「ノボル、あんたはなんで山に登るようになったんだ?」
同じそりで風を受けるヨルハが問うてきた。
「なぜって、俺は目の前に高い壁があってそれを無視できないだけだよ。あとはやり切った時の達成感かな。それだけでここまできた」
ぶっちゃけ、前世では自然と一体になることが〜とか月並みなことを言ったけど、根底にあるのは負けず嫌いと達成感だ。
「わかるよ。探検も似たところあるからね。達成感ジャンキーってやつだ。ラズ、あんたはなんで山に登ろうと思ったんだい?」
「俺はノボルに誘われたからってだけだよ。マシカラには何度も挑戦してるけど、あれは俺たちの村では登りないから登るんじゃなく、信仰からだからね。マシカラ以外の山に登ろうと思ったことはないよ」
「そういうヨルハはなんで探検隊に入ろうと思ったんだ?」
以前、探検をしているのは地図が書けるから探検家をしていると言っていた。
しかし地図が書けるからといって探検家になろうと思うだろうか?
普通は地図の制作者なんかになろうとおもうはずだ。
「あたしは、地図が書けるからってのももちろんあるんだけど、探検で見たものや聞いたものを話して聞かせたいやつがいるんだ。そいつのために代わりに探検家やってるって言っても過言じゃないね」
「その相手ってのは?」
「姉さ。クレハって言うんだけど、昔から体が弱くて外出はほとんどできなかった。自分で長距離歩くことも出来ないし…でも好奇心は人一倍旺盛なんだ。だから私が子供のころどこかに遊びに行ってその話を話して聞かせるといつも目をキラキラさせて聞いてくれた。そんな姉に体験談を話すのが習慣になて、もっとエキゾチックな話をって気づいたら探検家の世界に足を突っ込んでいたってわけさ」
何か別の理由があるとは思っていたが、ヨルハの抱えていた思いに正直驚いた。
ぶっきらぼうなヨルハが実は姉思いで、姉の代わりに世界を見聞きするために探検家をしているなんて、なんだか泣けてくるような話だ。
「優しいんだな、ヨルハは。なかなか人のために探検家やろうって思えるもんじゃないよ」
「姉のためってのももちろんあるけどな。そもそも私は外に出て、見たことない景色を見に行くのが好きなんだ。子供のころからね」
クレハもきっと、ヨルハとよく似て本来なら活発な女性なのだろう。




