34ピッチ目 ワイバーン合金
「ノボル、ワイバーンの合金ができたぜ」
1週間後ガルバンさんの工房を訪ねると意気揚々と飛び出してきた。
「こいつぁ確かにすげえよ。お前が言った通りの配合でワイバーンの骨を粉末にしたものを混ぜたら靭性のある合金が出来上がった。まだ測ってないからなんとも言えないが、感触的におそらく引っ張り強度もかなりあるはずだ。錆に強いってのは.どう調べたらいい?そのまんま置いとくくらいしか俺は思いつかないが…」
鯖に対する強度試験。
確か前世では塩水を噴霧する試験機の中に検査したい金属を置いて噴霧している時間で耐食性の試験をしていたはずだ。
「ガルバンさん、それならまずは一旦その素材でカラビナを十枚くらい作ってもらえますか?耐食性、錆に対する強さの試験は俺の方でやりますから」
おう、それなら。とガルバンさんはすでに形になっているカラビナを一塊り持ってきてくれた。
十枚以上は優にある。
「耐食性の試験、お前がやってくれるってどうやってやるんだ?錆びるかどうかなんて置いとくぐらいしかないだろ」
ガルバンさんのように内陸で金属加工業を営む者にはおそらく感覚的に身についていないのだろう。
金属、特に鉄は海水にさらされると、そうでない時と比べて極めて早く錆びる。
これは海水中もしくは海岸に近い海浜地区では海塩粒子、つまり塩分が鉄の表面を覆うことにより赤錆が発生する化学反応が促進されることによる。
確かこのモデルを提唱した者の名前に因み、エバンスサイクルと言ったか。
「耐食性の試験は俺が港町で行うよ。ポルトマルク近辺の海沿いで試験をすれば時間を短縮して耐食性の試験ができるはずだ。このあたりで自然に錆びるのを待っていたら時間がかかってしょうがないからね」
ガルバンさんは少々不思議そうな顔をしていたが、最終的にはそういうものかと納得した様子だった。
十枚余りのカラビナを受け取った俺はその足で商会に向かった。
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「おやおやこれはノボル様、お久しぶりでございます。普段はガルバンさんが顔を出されますが、珍しいですね。今日はどうなさいました?」
新たにワイバーンの骨を使った新型のカラビナを開発したことを商会に伝えた。
「それは素晴らしい。海岸地域ではいまだに鉄の錆に対して有効な手段が取れていないと聞いております。もし錆に強いカラビナ、それどころか金属が開発されたとなればそれは世界に革命を起こしますよ」
「まだ耐食性の試験は行っていないんだ。実際に錆に強いかどうかは僕がこれからポルトマルクに行って海岸沿いで試験を行う予定です」
「そうでしたか、では第一報という形でご連絡頂いたのですね、ありがとうございます。それではまだこの事業は内密に…」




