31ピッチ目 探検家ヨルハ
俺たちはその後、周囲の山々がきれいに見えるというブラスハイムで一番高い塔に来ていた。
長い階段をふうふう言いながら登っていく。
塔の頂上には何人かの人がいた。
風はほとんど吹いていない。
周囲の山々は山頂付近では雪を被り、ワイバーンの来る北西の方角では山頂付近は完全に雪に閉ざされている高峰も見える。
マシカラから見えた山地の一部だとは思うが、霧の間から見たあの景色のどこと、今見ている景色が一致するか定かではない。
しかしその山々の中に一つだけ、俺が目を離せなく山があった。
北西の方角から少し西の方に視線を滑らせたところにある鋭い山。
「オリビア、あの山、ほかの山々の隙間からちょっと見えているあの角のようにとがった山、あれはなんていう山だろう?」
「私も分からないわよ、この塔に登るの初めてだもん」
そうだろう、山のことをオリビアに聞いても多分わからないだろう。
「あのとがった山はリーゼホルンだよ」
突然背後から声が聞こえて飛び上がった。
後ろにいたのはバックパックを背負った若い女性だった。
「リーゼホルンという山なのか。君は登ったことがあるの?」
「リーゼホルンにはだれも登ったことが無いわ。ふもとまでは行ったことあるけどね」
あのふもとまで行くとなると、普通に行っても恐らくそれなりに険しい道行きになるだろうがなによりワイバーンの脅威がある。
北西の方角はまさにワイバーンが飛来する方角で、恐らくやつらの巣があると考えられる。
「君は何者なんだ?どうやってリーゼホルンのふもとまで行ったんだ?」
「私はヨルハ。探検家さ。探検隊のメンバーであのバリスタを馬車に乗せてワイバーンを倒しながら進んだんだ」
探検家、なるほど、言われてみればそういう風体をしている。
「探検の目的は?北西の方にいつも探検に行っているのかい?」
「そうだね、私たちの探検隊はブラスハイムから北西に続くあの道に沿って山岳地帯の探検をメインに行っているんだ。目的ねぇ…話してもいいけど、別に面白くもなんともないよ?」
面白さを求めているわけではないし、シンプルにあの山岳地帯には何があるか気になるから小さく頷いた。
「あたしたちの目的は氷の発掘なんだ。あたしたちは谷氷って呼んでるけど、山と山の間の深い谷には固い氷が詰まっているんだ。その氷の中にいろいろなものが閉じ込められて凍ってるわけ。あたしたちはそれを掘ってるのさ」
谷氷、氷河か。
確かに氷河は気が遠くなるほど長い時間を掛けて生成される。
「それにあたしのスキルは地図描き。一度行ったことがあるところは空から見たみたいに頭の中に地図を描けるし、それを紙に書きだすことも出来る。探検家としてはうってつけのスキルさね。だからあたしは危ないけど探検家をしてるんだ」




