30ピッチ目 ワイバーン狩り
「えー、それでは、これよりワイバーンの狩猟が始まります。みなさんはそちらの部屋からその光景をご覧いただくことが出来るようになっておりますので、そちらに移動して下さい。危険な動物を相手にしての、”戦闘”になりますので、万が一の事故が発生する可能性もございます。その場合は落ち着いて、係員の誘導に従ってください。それでは部屋の方へご移動をお願いします」
鎖帷子をまとった兵士のアナウンスだった。
一般兵士の割に丁寧なアナウンスだ。
きっとこのワイバーン狩りは興行として既に確立されているのだろう。
部屋に入った。
城壁の一部を塔にして一面をガラス張りにした部屋で、兵士たちの対応を見ることが出来るようになっている。
兵士たちはせかせかと動いてバリスタの発射準備を進めていた。
「皆様、物見の者からワイバーンの姿が見えたとの報告が入りました。北西の空をご覧ください。今回の襲撃では六体ほどのワイバーンが飛来しています。ワイバーン狩猟部隊の見事な迎撃をお楽しみください」
北西の空、確かに黒い点がいくつか見える。
それはだんだんと目視での視認が可能な距離まで近づいてきた。
ワイバーン。
おぞましい見た目をしている。
目は無く、大きな口には牙が並び、骨ばった脚と翼は黒く光っている。
「思っていたよりも気持ち悪い見た目だな」
「そうね。私も生きてる実物みるのは初めてだけど、動いてるワイバーンって気持ち悪いわね」
ワイバーンのあの姿を見て気持ち悪いと思わない者のほうが少なそうだ。
「発射用意!よく狙えよ、まだだ、まだ引き付けろ…今だ、一番、二番、打て!」
バリスタの弦が勢いよく弾けた。
巨大な矢がワイバーンめがけて一直線に飛んでいく。
ドッと鈍い音がしてワイバーンの右胸の当たりに突き刺さり、力なく地面に落ちてやがて動かなくなった。
二本目の矢はその横を飛んでいた個体の左翼膜に当たり、バランスを崩したのかバタバタと羽ばたきながら落ちていった。
残る四匹のワイバーンが激昂した様子で狩猟部隊の方へ向かっていったが、同じようにしてバリスタの餌食となった。
「すごいな。一発も外さずに六匹全部仕留めるなんて」
飛んでいる的にあの矢を当てるのは相当に難しいだろう。
しかしこのワイバーン狩猟部隊の兵士たちは難なくやってのけた。
やがて地面に落ちたワイバーンを回収すべく、別の部隊が門から出て止めを刺したり解体したりの処理が始まったが、俺たちはそこで退室した。
「いやぁ、思っていたよりも迫力のある光景だったな。ワイバーンも二、三メートルとは言ってもああやって翼を広げて向かってくるとそれ以上に大きく見えたよ」




