3ピッチ目 鑑定
馬車に揺られること数時間、ようやくフローデンの町が見えてきた。
中世の城はスロベニアにクライミングに行った時に少しみたことがあるが、まさにそういう風体だ。
「ノボルさん、あれがフローデンの町。このあたりだとフローデンが一番大きいの。大体のものはそろってしまうわ」
さらに近づくと思ったより城壁が高いことに驚いた。
「オリビア、思っていたよりもかなり大きな町なんだね、フローデンは。それで鑑定屋はどこにあるんだ?」
「大丈夫、私が一緒に行くから」
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「いらっしゃい。おや、オリビアじゃないか。君のはついこの間鑑定しただろう?今日はどうしたんだい?」
鑑定屋に入ると顔中白い髭だらけの小さな老人がいた。身長は一メートルほどだろうか。その小柄さには正直驚いた。
「おじさん、こんにちは。今日はこちらのノボルさんのスキルを鑑定してほしいの。何か事故にあったみたいで、うちの近所の森に倒れてて、記憶を失くしてしまったんだそうよ。ノボルさん、こちら鑑定士のアルフレッドさん。彼はドワーフ族よ」
ドワーフ…イギリスの、指輪が出てくるかの有名な小説で子供のころに読んだことがある。昨日からスキルやらなにやら、新しいことだらけでくらくらしてきた。
「なるほど、それは大変でしたな。どれ、それじゃ早速鑑定してみましょう。それではノボルさん、この椅子に座ってくれるかな?」
簡素なつくりな椅子に座ると、アルフレッドさんが俺の前に立ってなにやら呪文を唱え始めた。だんだんと空中に不思議な模様みたいなものが浮かび上がってくる。
その模様は回転しながらアルフレッドさんの左目と俺の左目の間に割って入った。
一瞬目の前で強烈な光が迸って目を閉じてしまった。と、次の瞬間にはその光は嘘のように消えていた。
「それじゃあ転写してみよう」
アルフレッドさんは空中の模様を掴むと白紙の本に押し当てた。というかそもそも、その模様物理的に掴めるものなんだ…
「さあ、出来上がりだ。これがノボルさんのスキルについて書かれた本です。スキルの基本的なことはこの本を見れば大体わかるはず。鑑定はサービスだからお代は結構ですよ」
手渡された本を開くと見覚えのない文字が並んでいたが、なぜか読める。これも女神による転生の効果なのか?
「スキル名、孤高の嶺…?」
字は知らない文字だが確かに孤高の嶺って書いてある。どういう効果なんだ?
「孤高の嶺?聞いたことの無いスキルだね。少なくとも私の鑑定した中では開花したことの無いスキルだよ。次のページにスキルの簡単な説明が書いてあるはずだから見てごらん」
ページをめくると確かに説明文が書いてあった。
「スキル、孤高の嶺。未踏峰に登頂すると新たなスキルをランダムで開花させることが出来る、と」
「新しいスキルを獲得…?二つ目以上のスキルの開花には通常、並々ならぬ努力の上で才能ある者にだけ許される特権みたいなものだ。それが、山に登っただけでスキルを獲得?そんな馬鹿な事があるか!」
そう言って本をひったくったアルフレッドさんだったが、その説明文を読んで愕然としていた。
「信じられない…信じられないが、過去に私の鑑定が間違っていたことはない。つまり、君は未踏峰に登るたびに新たなスキルを獲得する力を得たわけだ。といっても、普通に登れる山で未踏峰などそうそうあるものではないがね」
この世界に来ても、アルピニストとしての運命は何も変わってないってことか。女神さまはこうなるとわかって俺をこの世界に転生させたんだろうか…