27ピッチ目 ロラル峠
「なかなかきつい登り坂だね。馬を休ませながら進まないと」
ロラル峠の峠道は結構な斜度だ。
馬も苦しそうにしているし、少しでも重量を減らすために俺は歩いて登っている。
ロラル峠は二つの山の間の一番低くなっている部分、いわゆる鞍部を通過して山を越える。
そこまでの上り坂はつづら折りになっていて一気に標高を上げる。
「ノボル、歩いてて平気?替わろうか?」
オリビアが心配してくれているが、登山家の俺にとってはこの程度の上り坂はなんて事はない上り坂だった。
「大丈夫だよ、ありがとう。それにしても、良い眺めだね。峠を登りきればフローデンも見えるかな?」
今いるあたり、ちょうど七号目あたりでも東に森林と、ずっと南には海が見えていた。
フローデンのあたりはちょうど丘に隠れて見えないが、もしかすると見えるかもしれない。
「ノボル、あっちに見えている港町、あれがポルトマルクよ。この辺りの地方では一番大きな貿易港ね」
確かに港町が見える。
ここから見れば米粒のようだが、大型の帆船も見えている。
「これだけ景色がいいなら望遠鏡を持ってくればよかったな」
◆
◆
◆
峠道は七号目を超えてからさらに斜度が急になり、山頂手前ではかなりの急傾斜になった。
途中、馬が馬車を引くことができず諦めて下山して行った人もいた。
「もう少しで頂上よ、頑張って」
幸い、うちの馬はなんとか保ってくれた。
荷物をほとんど積んでいないし、大きな馬車でもなかったことが功を奏した。
「オリビア、ここで上り坂は終わりだ!あと少し頑張れ!」
オリビアに頑張れって言ってみたが、頑張るのはオリビアじゃないな。
ともかく、俺たちはなんとかロラル峠を登りきった。
峠は向こう側に続く山間の道のほかにちょっとした平地になっていていくつかの店が並んでいた。
「登りきったところも賑わっているんだね。ブラスハイムに行くにはここを通るしかないのかい?」
「そうね。山に囲まれているし、もっと西の山岳地帯にひかれた細い道もあるけど、そっちはどこにつながっているのか分からないわね」
山岳地帯に続く道というなら、もしかするとマシカラから見たあの山々につながっているかもしれない。
方角もある程度一致しているし。
「ちょっとお店で休憩していこう。あそこにレストランがあるから、ご飯にしよう」
店内は旅行客でにぎわっていた。
見たことの無い種族もいる。
「あぁ、あれは蜥蜴人だよ。南部の大陸には彼らの国があるんだ。ポルトマルクからこっちの大陸に来てる人が結構いるんだよ」
不思議そうに見ている俺に店主のおじさんが教えてくれた。
「あんたたちはどこから来たんだい?」
「俺たちはフローデンの方から来たんだ。二日くらいでここまで来ているから旅行に来ている人たちと比べるとかなり近い方なのかな」
見回すとみんなそれなりに大荷物だ。
登山をしそうな荷物を持っている人もいる。
「そりゃ確かにご近所さんだ。ほら、うちの自家製パスタのペンネだ。俺のスキルはフラワーアレンジメント。フラワーって言っても花じゃなくて小麦粉の方だがね」
笑いながらおじさんは言った。
ある程度の分量であれば小麦粉を自由自在に操れるらしい。
厨房で生地をふわふわ浮かせながら細長く引き伸ばしているのが見えた。
小麦粉製品にしか使えないんじゃ俺の役には立たないけど、レストランをやるにはうってつけのスキルだな。




