26ピッチ目 分岐路のマーケット
「ノボル、着いたわよ。ここがロラル峠への分岐点」
気づいたら寝てしまっていた。
オリビアに起こされてみると、ロラル峠を越える人々が街道沿いに小さな集まりを形成していた。
中にはその人々を相手にちょっとした露店を構えている人までいる。
「結構な人がこのロラル峠を越えていくんだね。ブラスハイムはそんなに大きな町なのかい?」
「ブラスハイムは美しい町だから観光でも有名なの。登山もフローデンより盛んなのよ。それにノボルのお目当てのワイバーン関係の製品はほとんどここでしか手に入らないから人気なのよね」
「そこの兄さんたち、ロラル峠を越えていくんだろ?それならこの笛はいらんかね?近頃ワイバーンが少々増えすぎていてね、峠越えの途中に現れることもあるらしいんだ。そんな時この笛があれば大丈夫!ワイバーンが嫌がる音が出るようになっているから、もし現れちまったらこの笛を吹けばいいんだ。どうだね?いまなら一本、三十クルトだよ」
行商人らしいおじさんが声を掛けてきた。
三十クルト、物価がパン一本が一クルト程度なことを考えると笛一本に出すにはなかなかの金額だ。
だが実をいうと、カラビナの製造に商会が興味を示したおかげでその製造元である俺とガルバンさんには毎月それなりの安定収入がある。
カラビナは簡単に取り外しができるし、なにより高強度。
画期的な発明ということで鉱工業中心に人気商品となっている。
いまではガルバンさんはカラビナを作ってばかりいるし、それどころか部下まで雇って生産し始めている。
「おじさん、三十クルト、これでその笛を一本ください。一応持っていきたいんでね」
「まいど!兄さん、いい買い物したね。これで安心さ。良い旅を!」
そういっておじさんは手のひらほどのサイズの小さな笛を差し出した。
集団から離れ峠に向けて少し進んだところでオリビアが口を開いた。
「ノボル、三十クルトなんてよくパッと出すわね。見るからに怪しいおじさんじゃない。その笛もほんとに効果があるかどうか…」
確かに言われてみればそうだが、俺にはこれが本物である確信があった。
「実はアイギスから峠越えにはここで笛を購入するのが良いって言われてたんだ。ロラル峠にワイバーンが出没するから、この分岐路のところで商人をしているおじさんから笛を買った方が良いってね。アイギスは確定していない情報を話すときは必ず未確定情報であることを伝えてくれるし、これは間違いないんだと思う」
「なら良いんだけど…」
やっぱりアイギスの話をしたらオリビアは心なしかちょっと不機嫌になった。




