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18ピッチ目 崩壊ルンゼ


落石を何度やり過ごしたことか。


遅々として大ルンゼの登攀は進まなかった。


幸い巨大な岩塊がいくつもあるおかげで、身を隠すことには困らなかった。


「だいぶ斜度が上がってきたな」


どうしても斜度が上がってくると必然的にペースは落ちる。


しかしながら落石があった時に身を隠せる巨大な岩塊も斜度が上がるにつれて少なくなってくる。


ペースは落ちるがスピードが求められる区間。


浮石に気を付けながら可能な限りスピーディに登った。


ルンゼの幅もだいぶ狭くなってきている。


出口に近づいている証拠だ。


垂直に近い角度になったルンゼ内を、か細いホールドやスタンスを拾いながら登っていく。


掴む岩に、体重を預ける前にグッグッっとテンションを掛けて一つ一つチェックしていくからどうしても時間はかかってしまう。


少しずつ高度を上げるにつれ、さっきまで深くあたりを包み込んでいた霧が薄くなってきた。


陽の光が霧の中に届いて乱反射している。


いよいよ出口が近いのだろう。


この調子だと恐らく左稜線上では霧から抜けられるはずだ。


左稜線は歩いて登れるだろうか、それとも危険な登攀がまだ残されているだろうか。


先のことを考え、ほんの少し、ほんの少しだけ今の状況に対して油断があった。


大きな岩に乗り込もうと右足を上げてにグッと力を入れた時だった。


その大岩は身を置いていた地面もろとも崩れ去った。


右足のスタンスを失った俺は大きく体勢を崩し、右手と左足でなんとかバランスを取っている状態だった。


自分のいる場所より下の岩ほとんどを巻き込みながら大量の岩がルンゼ内を崩れ落ちていく。


もはや落石ではなく、岩雪崩だった。


足元の岩が大規模に崩壊して俺の眼下はあのトラバースの時のように大きく開けた。


冷静になって、もしこの岩雪崩に自分がまきこまれていたと思うと心底恐ろしくなった。


ゆっくりと体勢を直すと自分の左足があったテラスを残してほかの部分は崩壊に巻き込まれていることに気づいた。


「危なかった。右手一本じゃ絶対に体重を支えられなかった。これも女神さまのおかげってことなのかな」


少し鼓動と息を整えてから冷静に考えると、もう一つ課題が出来たことに気づいた。


下降ルートだ。


登頂したら当然、下山する必要がある。


ここまで登ってきた感触では同ルートの下降で問題ないと思っていた。


しかしこれだけ大規模に崩壊すると、ルンゼ内の状況がどうなっているか分からない。


登頂できてもこのルンゼは下降ルートには使えそうになかった。


「別の下降ルートを探さないといけないな…」


俺はふらふらとまた次のホールドへと手を掛けた。


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