120ピッチ目 フィックスロープ
そりに長い長いロープを束ねて一路、氷河上を西進する。
今回もまだ暗いうちに出発している、もうじきクムジュンガの基部に着くはずだ。
と考えているうちに、第二尾根の基部へと到着した。
今回登るのは第三尾根、ここからニ十分ほど南に回ったところにある。
上部ではすぐ隣に見えるこれらの尾根も、基部まで降りてくるとその間のガリーはかなり大きく開いており尾根どうしの距離も自ずと離れてくる。
ガリーのは大量の雪が詰まっており、ちょっとした衝撃で雪崩が発生するし恐らくクレバスも大量に形成されていると予想される。
絶対にガリーに入ることだけは避けなければならない。
「ついたぞ、第三尾根だ」
下から見上げた第三尾根は一定の斜度を保ってほとんどうねることなく真っすぐに伸びていた。
フィックスロープを張る作業を行う必要があるから、俺たちは早速登攀の準備に取り掛かった。
前爪が縦向きになっている、アイスクライミング用のアイゼンを装着する。
ガルバンさんに作ってもらっておいて本当のよかった、これのおかげで多少はブルーアイスと戦うことが出来る。
「それじゃみんな、俺がフィックスロープの片側を持って登って支点にロープを張る。みんなはそのロープを使って登って来てくれ。くれぐれも注意しておくけど、ブルーアイスは本当に危険だ。アッセンダーのロープへの固定は間違いないように頼むよ」
俺は昨日下降してきた道をたどって登り始めた。
岩の突出しているポイントを辿って登っていく中で、大きめに突出しているところに支点を作ってフィックスロープを張る。
決して難しい作業ではないが、ロープを伸ばしていくとどうしてもその長さゆえの重さがのしかかってくる。
ブルーアイスの上の俺を、まるで登らせまいと何かが足を引っ張っているかのような感覚に襲われる。
だがこれに負けるわけにはいかない、俺自身が次にアタックする時にどれだけ安全に、体力と精神力を消耗せずにこの区間を登れるかは今の俺に掛かっている。
このフィックスロープを張る作業、おおよそだが十数ピッチは必要になるはずだ。
百メートルロープをニ十本持ってきているから足りなくなることは無いが、かなりの重労働だった。
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作業を繰り返すこと十六ピッチ、ようやく第一キャンプの辺りまでフィックスロープを張ることが出来た。
既に時刻は午後三時になっている、今日は第一キャンプで全員待機して俺は明日さらに上部へのアタック、三人はベースキャンプへと下山とすることにした。
今回追加で一張りのテントを持ってきていたからテント内が窮屈になることはなかったが、深夜から風が出てきた。
尾根上にも強風が吹き、テントが飛ばされまいとなんとか雪面にへばりついていた。
ごうごうと風の音が鳴り響き渡っていたが、俺たちは今日の疲れから朝までぐっすり眠ることが出来た。




