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12ピッチ目 お祈り


「マシカラに登るものはその心身を清めてからでなければならん」


そう言うのは俺の前にいるチャンドラというおばあさんだった。シーカの司祭らしい。


チャンドラさん曰く、マシカラは信仰の山として昔から大切にされてきた山で、登頂すると神の住む国に行けると言われている。


過去にも宗教的な目的でマシカラ登頂を目指したものは数多くいたが、途中で諦めて戻ってきたもの以外はその成否はわからない。


失敗して滑落して死んだのか、それとも登頂を成功させたから神の国へ行ったのか…


登頂して下山してきたものは誰もいなかった。


チャンドラさんは清めの儀式を淡々と進めていく。


彼女はマシカラに向かって何か唱えた後、俺の方を向いて再び何か唱えた。そして手に持っている香から出る煙を掴み、俺の頭上で静かに離した。


煙を掴めることにも驚いたが、彼女が離した煙はゆっくりと俺の体全体を洗い流すように下に落ちていき、最後は地面に吸い込まれて消えた。


なんだか本当に清められて心を洗われたようだった。


「うむ、これでよかろう。お主の心身はこれで清められた。マシカラへ登ることを許そう。じゃがの、信仰を忘れるでないぞ。山は時として、お主に恐ろしい表情も見せるじゃろう。しかしそれ以上の信仰があれば登り切れるはずじゃ」


うむ、うむと言いながらチャンドラさんはよろよろと自宅へと戻っていった。


屋外の祭壇には俺とオリビアだけが残された。


眼前にはマシカラの壁が覆いかぶさるようにそびえている。


「気をつけてね、ノボル。あなたは大丈夫って言うけど、私はここで待っているから。きっと見ているこっちが怖くなると思うけど、ここで見ているから、必ず帰ってきて。無事を祈っているわ」


オリビアは祈ってくれた。


シーカの人々のやり方ではなく、平地のやり方で。


胸の前で両手を握る、俺には馴染みのあるやり方だった。


珍しく緊張していた。


体のキレはいい。このコンディションならいける。


決して難しいルートではないし、これよりも難しくてさらに長いルートも過去にはたくさん登ってきた。


本来ならこの程度のルートで過度に緊張することはない。


だが今のこの気持ちは、初めてビッグウォールに挑戦した時の、不安と高揚感が入り混じったあの何とも言えない気持ちだった。


初心、か。


俺の異世界での初めてのクライミングが、今始まる。


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