119ピッチ目 第二アタック
夕刻十一時ごろ、俺は第一キャンプの設営を完了してベースキャンプへと帰還した。
二十一時間の行動時間で俺の体は限界に近い状態になっていた。
日が暮れる頃にはベースキャンプに戻ることが出来るだろうと考えていたが、下降に思ったより手間取ってしまった。
当然、第一キャンプを設営した尾根にもブルーアイスが張り付いているうえに斜度が緩いため、登ってきた尾根よりも厚く発達していた。
ブルーアイスが分厚くなれば当然岩が突出している部分も少なくなる。
加工のための支点を確保するために岩を探しながらジグザグと下ってこなければならなかった。
「ノボル!ようやく帰ってきたか!心配したんだぞこんなに暗くなるまで戻ってこないから!」
ボロボロの俺をベースキャンプで待機していたみんなが出迎えてくれた。
「いやぁ、疲れたよ…登攀するには最悪の状態だよ。尾根に氷が張り付いているんだ。でも中継キャンプを設営するのには絶好の場所を見つけたよ。おかげで帰りは荷物を軽くして下山出来たよ」
俺は倒れるようにして椅子にどっかりと座り込んだ。
そのまま沈み込んでしまいそうなほど疲れていたが、何か口にしないと体力は回復しない。
夕食を俺の分残してくれていて、温かいスープとパンを食べて俺はその日眠りについた。
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翌日、目が覚めると陽はだいぶ傾いていた。
十六時間ほど眠っていたらしい。
もともと今日は休養日に当てる予定だったし、体を休ませるには食って寝るのが一番だ。
十六時間でからっぽになった胃に食べ物を詰め込んで俺は体力を回復させることに専念しながらゆっくり過ごした。
翌朝の第二アタックに備えて。
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第二アタックの朝が来た。
昨日の休息中にクムジュンガを再びじっくりと観察して、走っている四本の尾根にそれぞれ右から第一尾根~第四尾根と名前を付けた。
俺が一昨日登った尾根が第二尾根、第一キャンプを設置したのが第三尾根だ。
今日は第三尾根を登攀する。
一昨日の下降時に既にルートをある程度確立していたし、今日はフィックスロープを張る作業も行いたいということで、作業を手伝ってもらうのに三人ついてきてもらうことにした。
一人で上げられる荷物の量には限界があるし、三人いればそりを引くことも出来る。
簡易的ではあるが持ってきた資材で骨組みだけのそりを作り上げていた待機組には頭が下がる。
「よし、それじゃあ二度目のアタックだ。俺は第一キャンプを超えてさらに上に行ってみる。山頂が臨めるところまでいければいいが、恐らく今回のアタックで一気に山頂を目指すのは無理だ。そのためにもフィックスロープの設置、よろしく頼むよ」




