118ピッチ目 C1(キャンプワン)
ブルーアイスの張り付く尾根は上部に行くにつれて段々と岩が突出している部分が多くなった。
恐らく傾斜が急になっていくことによって雪の付きが悪くなったからだろう。
岩の突出が増えたことによって次第にクライミングの要素が強くなっていく。
だがまだ、この程度であれば全く問題無くダブルアックス、オールフリーで余裕をもって登っていくことが出来る。
風もほとんど吹いておらず絶好のアタック日和だ。
だがどこかに第一キャンプを設営しなければならない。
尾根が寝ているところは無いか、岩小屋のようになっている部分は無いか、あたりを見回しながら登っていく。
しかしそんな岩小屋が都合良く見つかることもなく、容赦なく尾根の斜度は立っていく。
七十度近い斜度を登っていく中、左右の尾根が下に見える。
まてよ、尾根が下に見える?
ということは俺の登っている尾根よりも斜度が浅いということだ。
左右の尾根もどこかでどこかで急激に傾斜を増すのだろうが、ここよりもかなり斜度は緩く見える。
もしかするとキャンプを設営できるようなポイントがあるかもしれない。
問題はどうやって隣の尾根に入るか、だ。
尾根と尾根の間、ルンゼ部分はかなり深く切れ込んでいるうえ、底には雪が溜まっている。
恐らくブルーアイスの上に吹き溜まった雪だろう、上に乗って衝撃を与えたら大規模な雪崩になりかねない。
まっすぐ横切るのは不可能だ。
初めからやり直して隣の尾根に入るという方法も考えられなくはないが、今からではあまりに時間がかかりすぎる。
今回の遠征自体が無意味に終わりかねない。
何か突破口は無いかと見回していると、今よりもう少し標高が高いところでルンゼ内の斜度が立ってきて岩壁に変わっている箇所が見えた。
あそこをトラバースで渡って下降すれば行けるかもしれない。
「それにしてもまたトラバースかよ…リスクあるからあんまりやりたくないんだけど、仕方ないな…」
岩はごつごつしているが丈夫そうだ、あまり崩壊の心配はない。
高度を上げてトラバースの部分に来てみたが、特にここを渡るのに問題はなさそうだ。
なんてことなくトラバースを渡り、懸垂下降で隣の尾根に降り立つことが出来た。
この尾根は俺が今いるここで、今降りてきた岩壁にぶつかって消滅している。
代わりに今いるところは若干の傾斜はあるがほとんど平地だ。
それに雪の付きも少なく、ちょっと整地すればキャンプを設営することが出来る。
「第一キャンプはここで確定だな。そうと決まればさっさと設営作業に入ろう」
時刻はおおよそ十時~十一時くらい、設営して下降すればベースキャンプに夕方にはたどり着けるだろう。




