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116ピッチ目 ベースキャンプ


二日目の山行は一日目と比べて快適なものになった。


ある程度アイスフォールから離れたことで、クレバスの数もだいぶ落ち着いてきた。


それでもクムジュンガはまだ先だ。


ヒマラヤ等の超高山地域では一つ一つの山が自分の想像を上回るほど大きく、距離感がおかしくなる。


遠くから俯瞰で見た時には全体を見渡すことが出来ても、一度その山域に足を踏み込んでしまうとあまりのスケールの大きさに自分たちがいまどこにいるのか分からなくなってしまうのだ。


この氷河上を歩いているうちは大丈夫だろうが、尾根に取り付いたら自分の位置はきっとわからなくなってしまうだろう。


なかなか登山をしない人には想像が難しいかもしれないが、これが思っているよりもキツイ。


自分の状況を客観的に把握できていないということは、一寸先に死の危険が迫っていても自分では気が付けないかもしれないということだ。


それが分かっていても客観視出来ないことが心をキリキリと締め付けてストレスを与えるのだ。


今回の山行はまだ一度目、無理をするべきではないことはわかっている。


誰も登ったことが無い、それどころかトライしたことすらないような山に登るのだ、一度で制覇できるなどとは思っていないが、それでもどこか期待してしまう。


俺は何度も氷河の上を歩きながらクムジュンガを見上げた。





午後一時ごろ、ベースキャンプ予定地の近辺に到着した。


氷河も真っ平に安定しているし、壁面からもかなり離れていて落石、雪崩のリスクもここなら限りなく低い。


注意深くあたりを見回してあらゆる潜在的なリスクに思いを巡らせたが、リスクと呼べるようなものは思いつかなかった。


「よし、ここにしよう。ベースキャンプ用の大テントを張って、昨日と同じように氷のブロックで囲うんだ」


今日は昨日と比べて日没まで時間はあるし、とりあえず目的地まで到着したということにみんな安堵していた。


ベースキャンプの設営は特に問題もなく、無事に完了した。


大テント内には簡易的なテーブルが置かれ、これまた簡単にまとめられたここまでの地図が置かれた。


また調理場もテント内に作られ、今日はベースキャンプを無事に設営完了した祝いに鍋を囲むことになった。


夕方になってあたりが暗くなってきたころ、大テント内には美味しそうな香りが漂い始めていた。


メンバーの中の一人が調理担当で、シーカでも腕利きの料理人だ。


彼の作る飯はシーカでの宴の時にも振舞われ、みんなから大変人気がある。


鍋を囲んでささやかなパーティーでは無事目的を達成したみんなが互いを讃え合うとともに、明日クムジュンガに挑戦する俺を励ましてくれた。


明日、ついに俺はクムジュンガに挑戦する。


恐らく一度は敗退するだろう。


一度二度の敗退では済まないかもしれない。


だが俺は、山に許しを請うてただ愚直に登るだけだ。


山から許しを得られた時、初めて山頂に立つことが出来るだろう。


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