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115ピッチ目 早朝


テントの中に入った俺たちは一日目の疲れからか、暴風にはためくテントを尻目にあっという間に寝てしまった。


翌朝、目を覚ますと静寂が空気を支配していた。


文字通りすべてが凍り付く外気温の中、俺はまだ寝ているみんなを起こさないように一人テントの外に出た。


昨晩の暴風がまるで夢だったみたいに、そよ風すら吹いていない静かな朝だった。


太陽はまだ山々に隠れて姿を見せていないが、クムジュンガはその雄大な山体に朝日をいっぱいに浴びて伸びをしていた。


今日はあのふもとにベースキャンプを設営する。


適切な場所を見極めるところから始めなければならない。


恐らくクムジュンガの山麓あたりまで行けばこの氷河も落ち着いてクレバスも無くなるはずだ。


それなら落石や雪崩を避けて氷河上にベースキャンプを張るのがいいかもしれない。


朝日を浴びるクムジュンガを俺はもう一度見上げた。


東面は登頂不可能、大地からまっすぐに立ち上がったその壁は山頂付近では反り立っているようにも見える。


やはり南面側に伸びる尾根伝いにアタックを仕掛けることになるだろう。


しかしここまで近づいてみて初めて分かることだが、その尾根の終わるポイント、そこから先へはやはりクライミングを織り交ぜての登攀になりそうだった。


「簡単には登らせてくれないよな」


俺はコーヒーを入れて昨日切り出した氷のブロックの上に座ってじっとクムジュンガを観察していた。





どれくらいそうしていただろう、隊員たちが目を覚ましてテントから出てきた。


「ノボル、おはよう。寒いけど良い朝だな」


皆それぞれ俺と同じようにコーヒーを入れたり、早めの朝食をとったりと各々で行動していた。


朝食は沸かした湯でふやかした穀物と、ウィンナーとちょっとした野菜が入ったスープだった。


味付けのベースはコンソメとトマト。


寒い中で飲むアツアツのスープほど美味いものはないと雪山にくるといつも思う。


昔、初心者の頃に先輩に連れられて八ヶ岳の冬山に行った時に食べた鍋を思い出した。


今でもあの温かい鍋を、初めての雪山テント泊でみんなで囲んだ時のことはよく覚えている。


そのうち段々と明るくなってきた。


陽が谷底に差し込んできたら出発することになっていたから、段々とクムジュンガから影を追い出している陽の光を見ながら出発の準備を進めた。


やがてまぶしい太陽が山の間から谷底に差し込んだ。


今日も長い一日が始まる。


ずっしりと重い荷物を担いで昨日と同じようにアンザイレンして、俺たちはまた一歩ずつ歩き出した。


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