112ピッチ目 アイスフォールを往く
数日後、シーカを出発した。
総勢十二名でクムジュンガのふもとを目指す。
それぞれかなりの重量の荷物を持っての山行となる。
それもこれも、山頂アタックする俺のためにみんながやってくれていることだ、絶対に失敗は許されない。
シーカを発っておよそ三時間で正面に氷河の滝、アイスフォールが見えてきた。
滝と言っても、氷河の流れが急勾配や谷底などの狭い部分に集中することによってその流れる速度を増し、崩れたクレバスや氷柱、セラックを形成する危険地帯のことであって、一般に想像するような夏は滝で冬は氷瀑、といったものではない。
このアイスフォール部分の幅はおおよそ1.5キロメートルほど。
上流と下流では幅が広いから、このアイスフォールの部分だけはグッとくびれて氷の通る道が細くなっていることが分かる。
さらにこの部分は勾配を増して一気に斜面を駆け下りているから氷の流れるスピードも速くなっており、危険な氷河の滝を形成していた。
やがて道はマシカラの側壁、氷河に向かって左岸をトラバースする道に入る。
道は踏み跡がかろうじて残っている程度で決して良い道とは言えないが、確かにそこにあった。
道の右側は氷河まで一気に切れ落ちており、落ちたら確実に命はない。
にもかかわらず道は外傾していて重い荷物を持つ一行には、アイスフォールを行くよりはまだマシだが極めて危険な道だ。
慎重に進む。
時折ゴゴゴッと音がして氷河の方を見ると、遠近感が上手く働かずにサイズはわからないがともかくとてつもなく大きな氷塊が崩れ落ちていた。
あんなところを通らずに済んで本当によかったと胸をなでおろした。
トラバースする道はマシカラの側壁に沿って左にだんだんと曲がっていく。
少しずつではあるが、クムジュンガがその姿を現しつつあった。
"尖峰"、その言葉がふさわしかった。
槍のようにとがった山頂は何者をも寄せ付けない威厳を保っている。
マシカラの大岩壁にも負けず劣らずの威圧感だ。
だが弱点はある。
正面にいくつか尾根が延びていて、その尾根を歩いていけばある程度の標高までは稼ぐことが出来る。
みたところ垂直の壁の登攀が求められる部分はほとんど無さそうだが、現地に行ってみないことにはわからない。
希望はあるということが分かってまずは一安心。
今はとにかく、この道を抜けてクムジュンガ山麓の氷河上にベースキャンプを張ることが最優先事項だ。
誰も落ちることなく、俺たちはトラバースルートを抜けた。




