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109ピッチ目 過去のトラウマ②


「畠中ー!聞こえるかー!?やっぱり苦戦してるのか!!」


そんな声かけを何度かしたような記憶がある。


そのたび畠中は何かぼそぼそと言っていたが、その声は大ハングに遮られて俺の元に届くことはなかった。


今思えば、きっと俺の声も畠中には届いていなくて、登さん聞こえないですよ!って言っていたような気がする。


畠中が大ハングを抜けてから十分ほども経過しようかという時だった。


ロープが急にグンッと引かれた。


俺は体ごと一ピン目に向かって吹っ飛ばされた。


セルフビレイとメインロープに同時に引かれ、これでもかというほど強く岩に叩きつけられた。


その衝撃があっても俺はビレイの手を離すことだけは絶対にしなかった。


俺がその数瞬、視界の左側で捉えていたのはこぶし大ほどの石ころと力なく頭から大ハング下へと落ちた畠中の姿だった。


「あっ!」


一瞬の出来事だった。


墜落したのだ。


だがまだ畠中にはロープがつながっている。


ぐったりと力なくぶら下がった状態で確実に意識はない、生きているか死んでいるかもわからない状態だが、それでもロープは切れることなくつながっている。


ちょうど足がこっちに向いてぶら下がっているため、上半身を見ることが出来ない。


恐らく、畠中と一緒に落ちてきたあのこぶし大の石が畠中の頭にぶつかってその意識を奪ったのだろう。


問題は、どうやって畠中を救出するかだ。


とりあえず落ち着いて一旦ビレイ点に降りないと、そう思った俺は懸垂下降の要領でロープを出してゆっくりとビレイ点に高架した。


セルフビレイはつながったままだ、俺の墜落のリスクは小さい。


畠中がぶら下がっているのはちょうどハングの先端から十メートルほど落ちたところ、俺のいるハング下の壁からも十メートル離れている。


とてもどうこう出来る距離ではない。


俺がハング上にいたならレスキューも可能だっただろうが、俺がここにいるのではどうしようもない。


選択肢は二つ。


一つは外部の救助を待つ、もう一つは俺もハングを登って上から吊り上げて救出するかだ。


山奥のここで救助を待つのは、頭部に外傷を受けている可能性が極めて高い畠中では耐えられない。


当時携帯電話もない時代、自力でレスキューを呼ぶことはできず、登山計画通りに下山してこない俺たちを心配した誰かが通報してから捜索が始まるはずであった。


それでは間に合わない。


「畠中、待ってろよ。いま助けてやるからな」


俺は畠中と結ばれているロープをフィックスして、予備で持ってきたもう一本のロープをハーネスに結び付けた。


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