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106ピッチ目 下山路


「イシタス、イシタス!大丈夫か!?」


イシタスがゆっくりと目を開いた。


何が起こったか分かっていない様子だ。


俺の時もそうだった、一瞬のできごとだっただろう。


辺りを見渡しては体が痛そうにしている。


「俺…どうなったんですか?岩が剥がれて、それで…そこまでしか覚えてないです…」


むしろそこまで覚えているなら上出来だ、それにあれだけの滑落をして体は痛いながらも意識がはっきりしていることもまた奇跡と思えた。


「あの滑落で三十メートル近くスラブ面を転げ落ちたんだ。いろんなところに体をぶつけながらな。そのあと意識を失った君を俺とラズで引き上げた。本当に無事でよかったよ…」


だが俺たちはまだこれから下山して町まで帰らなければならない。


下まで降りればどうにか馬車を調達して町まで帰ることは出来るだろうが、一般登山道を通っても下山にはかなり時間がかかりそうだ。


そもそもイシタスが歩ける状態であるかどうかも定かではないし、無理して悪化しても良くない。


「イシタス、全身痛いところ悪いんだが、立ち上がれるか?歩けるか?」


「無理です、力が入らない…すみません…」


やはり歩くのは無理か…


イシタスの身に着けていた服はところどころ破け、血がにじんでいるところがいくつもある。


陽も天頂を超えて傾きかけているし、動くなら朝から動いた方がいい。


仕方ない、今日はここで一夜を過ごすしかないか…


幸い、樹林帯ということもあって火を起こすための枝には困らなかった。


しかしもともと一泊する予定の無い山行なだけあって、大した食料を持ってきていない。


行動食のような食料を三人それぞれ口にして眠りについた。





翌朝、ほんのすこし残った行動食を三人で分けた。


イシタスの左足はどうやら骨折しているようだった。


添え木をして着ていた服でぐるぐる巻きにして固定する。


俺とラズでイシタスに肩を貸してなんとか立ち上がらせる。


右足はなんとかついて歩けるようだ。


そこから長い長い下山路が始まった。


もともとそれほど登山が盛んな世界で無いことはわかっていたが、これだけ時間をかけてゆっくり降りているのだから誰かしらとすれ違うと思っていた。


そして助けを呼べるものと思っていた。


だがそれは考えが甘かったようだ。


誰ともすれ違わないまま、ほぼ午前中いっぱいをかけて下山路を歩ききってしまったのである。


「イシタス、よく頑張ったな、馬車を捉まえてくるからここで待っててくれ」


ラズはそう言って走っていった。

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