102ピッチ目 ラズとイシタスと俺と
「久しぶりだな、ラズ、イシタス!」
彼らに会うのは半年以上ぶりだった。
初冬に旅に出てから既に晩冬、イシタスのクライミングはあれからさらに洗練されたものへと進化していた。
今ではもう初段、二段に取り組んでいる。
しかしまだロープを使ってのクライミングの経験はなかった。
ラズは一人だったが、俺が教えたロープクライミングを実践して技術を高めていた。
「ノボル、久しぶり!帰って来てたんだね」
「ノボルさんじゃないですか!お久しぶりです。外岩、また連れて行ってくださいよ」
パラレルには店主のイシタスと常連のラズの他に、何人か常連と思しき人が来ていた。
俺の方をちらちら見ているところを見ると、店主と最古参の常連客が話している相手が気になるといった様子だ。
「さっそくなんだが、新しいロープを開発したんだ。試しに明日か明後日か使おうと思ってるんだが、二人とも来ないか?店はオリビアに任せて」
二人は二つ返事で了承した。
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翌日、俺は異世界で初めて登った山、チルナーダ山へやってきていた。
チルナーダ山は前に登った時に確認した通り、かなり固い岩質の山だ。
露岩が多く、当然クライミングできそうな岩場もそれなりにあると踏んで、岩場の開拓も兼ねての山行だ。
予想通り、通常の登山道から外れたところに幕のように連なった岩場を発見した。
ちょうど町からは見えない方角だ。
岩場は幅約三百メートル、高さも目算で約二百メートルほどあるだろうか。
しかし決してつるっと切り立っているわけではなく、バンドやクラックも走っているし、傾斜が比較的寝ていてクライミング的難易度が高いようには見えない。
ゲレンデに最適だ。
ちなみにゲレンデとはクライミングを用いて山頂まで行く山行を本番とするなら、その練習のために登る岩場のことだ。
「ラズ、ここ登れるか?」
「いけると思うよ。ハーケンが入りそうなリスもたくさんあるし、ここなら整備していけばもっと人を集められる初心者向けの岩場にできるかも」
とりあえず試登してみることになった。
リードはラズ、セカンドでイシタス、サードで俺だ。
イシタスはロープクライミングは全くの初めてとなる、一人になることが無いように俺かラズのどちらかが必ず見れるようにこの順にした。
「俺、登れますかね…?ロープの結び方とか何にも分からないんですけど…」
「大丈夫だ、イシタスはただ登ればいいさ。ロープを結んだりなんだりは俺とラズでやるから、イシタスはとにかくロープクライミングを楽しんでくれよ。この高い岩壁を登り切ってそこから見る景色は最高だよ」
ただ登ればいいと聞いてイシタスは安心したように笑顔で岩壁の頂点を見上げていた。




