なぜ……?~ルディ~
アンジェリーナ・ヴァネッサ・ミットフォード伯爵令嬢。
彼女は僕、ルディ・リットンの婚約者だ。
僕とアンジーは幼馴染みで、3歳の時に婚約している。
アンジーは、美しいプラチナブロンドの持ち主。いつも綺麗にカールされていて、瞳はアメシストのようにキラキラしている。整った顔立ちをしていて、とても大人っぽい。
クリーム色のドレスが好きで、リボンだったり、レースだったり、飾りボタンは紫色。その組み合わせのアンジーを見ていると、ラムレーズンのアイスを、僕はいつも思い出してしまう。
同い年とは思えない、落ち着いたアンジーは間違いなく、美人と言われる存在。
でも僕からすると可愛らしいラムレーズンのアイスみたいで、いつもぎゅっと抱きしめたい気持ちになってしまう。
実際、子供の頃は、よくアンジーに抱きついていた。
でも大人になり、そしてこの国の事情を知ると……アンジーを抱きしめることにも、遠慮してしまうようになった。
アンジーと僕が暮らすホワイトサイド国には、獣人族と人間が暮らしている。獣人族と人間は、かつて敵対することもあったが、今はとても仲がいい。でも昔の名残りがあり、僕とアンジーは同じ伯爵家だが、アンジーのミットフォード伯爵家の方が、うんと格上だ。
貴族というのは、爵位の上下をとても気にする。僕とアンジーのような場合、アンジーが主導権を握り、僕が下手に出るような関係になってもおかしくなかった。
でもアンジーは、格上であるとか格下であるとか、人間であるとか獣人族であるかどうか、そんなことを気にせず、子供の頃から僕と対等であってくれた。それどころか、一歩後ろから僕を立てるようにしてくれて……。
アンジーは、他の令嬢と違う。レディーファーストを当たり前とせず、僕が彼女に対してすることに、いつもちゃんと感謝の気持ちを伝えてくれる。
しっかり者で聡明で。いつも優しくて、でも照れ屋なところがあって。僕は……本当にアンジーが大好きだった。
でも……。
気づくとアンジーは、僕といる時に寂しそうな顔をしたり、ため息をつくことがあった。それは何かを恐れているようで、とても気になってしまう。何度となくアンジーに尋ねたが「何でもないわ、ルディ」としか答えてもらえなかった。
無理に聞き出すのはよくない。そう思い、彼女が何だか物思いに沈んでいる時は、そっとしておくようにしたのだけど……。
なんだかアンジーと僕の間に距離ができているようで、不安でならなかった。その一方で、学校を卒業したし、僕の仕事……騎士団で副団長をしている……も軌道にのったので、そろそろ結婚式を挙げようと、提案するつもりでいた。
20歳の僕の誕生日パーティー。
この国で20歳の誕生日は特別だった。成人として認められるのは18歳。だが飲酒が可能になるのは20歳。よって20歳の誕生日パーティーは皆、大々的に行うのが慣例。さらにこの20歳の誕生日で、プロポーズすることも多かった。
僕もこのパーティーで、結婚式のことをアンジーに話すつもりでいたのだが……。
目の前で起きている出来事が、現実のこととは思えなかった。
だってアンジーは突然「婚約破棄をしましょう。」と言い出したのだ。しかもなぜか紹介しようとしたハウエル男爵の次女ララのことを、とても可愛らしいと言い、さらにはお似合いだと言ったのだから。
呆然とし、僕は「え?」という言葉しかでなかった。
その間にアンジーは「お二人の幸せを願っています。……ご機嫌よう、さようなら」と言って、会場から出て行ってしまう。何が何だか分からなくて、しばらく動くことができなかった。
だが次第に事態を理解する。
でもそれは「なぜだか突然婚約破棄をされた」ということだけだ。
どうして? なぜ?
僕は一度だってアンジーと婚約破棄をしたいなんて思ったことがないのに。
慌ててアンジーを追い、エントランスに向かったけど、その姿は見つからなかった。
アンジーを追わないといけない。
なぜ突然、婚約破棄なのか、理由を教えてもらいたいと思った。
その理由が僕の行動にあるならば。
改善したいと思った。
自分が主催した誕生日パーティーではあったが、ホールに戻り、謝罪をした。飲酒が可能となった20歳を祝うパーティーだから、お酒は沢山用意されている。お酒は好きなだけ飲んでもらって構わないと伝え、あとはバトラーとメイド長に頼み、屋敷を飛び出した。
馬車でのんびり追うなんてできない。
馬に飛び乗り、アンジーの屋敷へ一目散で向かった。