エピローグ~アンジー~
ルディと私が暮らすホワイトサイド王国において。
20歳の誕生日は、18歳の誕生日と同じぐらい、特別だった。
それなのに。
ルディはお酒を口にすることなく、みんなからのお祝いも中途半端で、森の中で私と二人、キャンプをしている。
これはよくよく考えると、大変申し訳ないことをしてしまったと気づいた。気づくのが遅いよ、アンジー!と勿論、自分ツッコミはいれてある。
お酒はどうやっても今、用意できない。
でも。
誕生日プレゼントは……。
これがギフトになるのかは分からない。
でも思い出はプライスレスのはず。
だから……。
「ルディ。今の私からプレゼントできるもの。それを考えてみたわ。そして思いついたの。……後日、ちゃんと形に残る物を贈るわ。今日のお詫びも含めて。でも、今はこれで……我慢して」
なんとか言い切ったけれど。
もう全身が心臓になったかのようにドキドキしている。
声も少し掠れ、震えて、もう、自分が自分ではないみたい。
それでもルディの腕を掴み、そして――。
その一瞬。
世界は静寂に包まれた気がした。
焚火の音も、虫の鳴き声も、フクロウの声も聞こえない。
再び世界の音を耳に感じた時。
猛烈な恥ずかしさでルディの顔を直視できない。
でもルディは――。
「アンジー、ありがとう! 最高のプレゼントだよ」
そう言うと私のことをぎゅっと抱きしめてくれる。
「僕はこの瞬間のこと、一生忘れないよ。よぼよぼのおじいさんになっても、ずっと覚えているから。アンジーとの初めてのキス。僕の20歳の誕生日。永遠に覚えているから」
ルディは本当にこのプレゼントを喜んでくれた。
ずっとずっと私に泣き顔見せないようにしていたのに。
涙を流して喜んでくれたのだから。
◇
ルディとの二人キャンプを楽しんだ翌日からは、いろいろと大変だった。でもそうなるようなことを私はしてしまったので、甘んじてその大変さを受け入れ、謝罪行脚を行った。
ただ、ルディの両親、親戚、知り合いだからなのか。
みんな、優しかった。
私が勘違いして、とんでもない行動をしたのに「若い頃は時に突っ走りたくなることもあるから」「若いうちの失敗なんて、失敗に入らないから大丈夫」と、許してくれた。
さらに私の謝罪行脚にルディは付き合ってくれて……。
「みんながアンジーを許したのは、普段のアンジーがどんな人物か知っているからだよ。アンジーの人徳の結果だよ」
そんな風に言ってくれるので、何度泣くのを堪えたことか。
私は自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気づき、シナリオに抗おうとして、無理であると悟ることになった。ただ、用意された断罪はそこまでヒドイものではない。そのまま受け入れ、やり過ごす道もあっただろう。
でも大好きな人から、推しだった人物から、「婚約破棄」を告げられ、「二度と話さない」と宣告され、「新しい婚約者の紹介」をされたくないと思ってしまった。
断頭台に送られるわけではない。国外追放されるわけでもない。それぐらい我慢したら?と自分でも考えたが――。私の場合「それぐらい」と割り切ることができなかった。
そこで断罪の場となるルディの20歳の誕生日パーティーで、私から婚約破棄を宣告したのだけど……。
まさか婚約破棄を宣告した後に、両想いであることが発覚するなんて。想像もしていなかった。
神様は……正しかった。
ちゃんと私が幸せになれるように、転生させてくれていたのだ。
「アンジー、これ、君と僕の生まれ年のワインだよ。僕の父親が、いつか君と僕とで飲めるようにって、ワイナリーで寝かせ続けてくれていたんだ」
ルディの声で我に返り、彼の手にあるワインボトルを見る。
今日のルディは騎士団の隊服を着ており、とてもカッコイイ。
さらにワインのボトルを持つ姿も、実に様になっている。
ちなみに私は大好きなクリーム色のドレスで、勿論フリルは葡萄色。
「ルディ、そんな貴重なワインを、謝罪行脚が終わったからって……開けてしまっていいの?」
するとルディはクスリと笑う。
「だって。僕はアンジーと初めてのお酒を楽しみたくて、今日まで我慢していたんだよ。……勿論、結婚式でお酒解禁でもいいけど……。初めてのお酒で僕、自分がどうなるか分からないから。結婚式で初めてお酒を飲んで、新郎が泥酔したら、困るよね?」
「まさか、ルディがそんな!」
想像できるような、でも泥酔とはいかなくても、酔っぱらって尻尾をご機嫌で振っているルディは……なんとなくイメージが浮かぶ。
「それにさ、僕の父親は……お祝い事が大好きだから。僕達の生まれ年のワインは、1ダース用意してくれているから。だから大丈夫。飲もう!」
こうしてルディはワインの栓を抜き、ボルドー型のグラスに、美しい赤ワインを注いでくれる。
芳醇な香りが一気に辺りに広がった。
「では、乾杯をしよう、アンジー」
笑顔のルディがグラスを持つ。私もグラスを手にルディを見る。
「アンジーと僕の未来に」
「「乾杯」」
*♡*。・Be happy for ever and ever・。*♡*
お読みいただき、ありがとうございました!
ハッピーエンドの本作、読者様が楽しめたなら嬉しく思います。
よろしければ
☆☆☆☆☆をポチっと、評価を教えてください!
新作などページ下部にイラストリンクバナーを多数設置しています。
お手数ですがスクロールいただき
バナーをタップORクリックで目次ページへ飛びます!