え、誤解なの?~アンジー~
アンディは……。
今、ハッキリ、私を好きだと言ってくれた。
靴裏にわざと熊避けパウダーをつけたと気づいているのに、許してくれると言ってくれている。
え、なんで?
アンディは……ヒロインを、ララのことを好きなのではないの?
あの場で私に断罪として
「婚約破棄」「二度と話さない」「新しい婚約者の紹介」
を行使しようとしたのではないの?
「アンジー、君は何か誤解していない? 例えば……ハウエル男爵令嬢のこととか」
「……!」
「ハウエル男爵令嬢にはお兄さんがいる。僕が所属する騎士団に騎士として所属しているんだ。そのお兄さんに会うために、ハウエル男爵令嬢は何度か騎士団の訓練所に姿を見せることがあった。でも、それだけだよ。数える程しか会話をしたことがない。アンジーは……彼女のことで何か誤解をしている?」
ルディの言葉に混乱してしまう。
だって……。
シナリオ通りであるのに何かが違う!
シナリオでは、ヒロインであるララとルディが、まさに騎士団の訓練所で出会うことになる。ララの兄が騎士団にいて、その兄に会いに行き、ルディと出会い恋に落ちるのだ。
それなのに今の様子だと、ルディは……ララに恋をしていない……?
「ララ……ハウエル男爵令嬢と、ルディは話をしたのよね? 彼女は……可愛らしいわ。彼女のことが、気になったのでは?」
ドキドキしながら尋ねると。
「可愛いなんて思ったことは、一度もないよ。……でもアンジーが彼女のことを可愛いというから、『そうなのか』と思い、よくよく見たけど……。確かに可愛いかもしれない」
やっぱり。やっぱり、シナリオ通りなんだ!
「ただ、僕が可愛いと心から思うのは、アンジーだけだよ。それにアンジーは、なぜかララと僕がお似合いだなんて言っていたけど……。僕はそんな風に思わない。僕の隣に立ち、似合う女性は、この世界でただ一人。アンジーしかいないと思っている」
「……う、嘘よ!」
思わずそう言うと、ルディは困った顔になる。
「アンジー、どうして嘘だと思うの? 僕は君に嘘をつくつもりはないよ。嘘偽りない気持ち。だって僕は、アンジーが大好きなのだから」
心臓が止まりそうになる。
だって、私が好きだとルディが言うのは、これで2回目だ。
ほ、本当にルディは私が好きということ……?
いや、でも。
落ち着いて。
ルディは気づけば私と距離をとっていたわよね?
そのことを指摘すると……。
「アンジー、それこそ誤解だよ。君は僕といる時、寂しそうな顔をしたり、ため息をつくことがあったよね? それは何かを恐れているようで、とても気になってしまった。何度となくアンジーに尋ねたけど『何でもないわ、ルディ』と言われて……」
……!
それは思い当たる。
だって。
ルディと別れる未来が近づいていたから。
気持ちが沈むことが頻繁にあったのだ。
「とても気になった。力になれるなら、なりたいと思ったから。ただ、無理に聞き出すのはよくない。そう思い、君が物思いに沈んでいる時、そっとしておくようにしていた。でもまさかそれが、距離をとろうとしている……と思われていたとは。……困ったね」
そう言ったルディの獣耳は倒れ気味で、尻尾も元気がない。
「でも……僕も感じていたよ。ここ最近、なんだかアンジーと僕の間に距離ができているようで、不安でならなかった。だからと言って、今日、まさかあの場で。『婚約破棄をしましょう』……そんな風に言われるとは思わなかったよ」
遂にルディの獣耳はペタリと倒れ、尻尾の先端は地面に届きそうな状態。完全にしょんぼりしている状態だと分かった。そんな彼の姿は見ていて切なくなってしまう。
それに今の話を聞いている限り、ルディは……私のことを嫌っているわけではなかった。悲しい未来を想像し、塞ぎがちになる私を見守ろうとしてくれていたと理解できた。
力になれるなら、なりたいと思ってくれていたのに、ルディは。私は……“ソロキャン”をして自分の殻に閉じこもってしまっていた。
「ルディ、ごめんなさい。私は……勘違いしていたようね。なんていうのかしら。夢。そう、夢で、ルディとハウエル男爵令嬢が結ばれる姿を見てしまって……。夢だからハウエル男爵令嬢は架空の存在かと思ったら、ちゃんと存在していたわ。それでなんというか、それは夢ではなく、予知夢なのではと思えてしまって……」
自分が転生者であるとか、ここが乙女ゲームの世界だから、なんてさすがに話せない。結果、なんとも苦しい言い方になってしまった。でもルディは……。
「アンジー、君はしっかりしているし、聡明なのに。まさか夢……予知夢? そんな非現実的なことを信じてしまったのかい? まったく。僕は空想の中の僕により、アンジーに誤解されてしまったのか。参ったな。……でも、話してくれて、ありがとう、アンジー」
ルディが顔をあげ、瞳をキラキラさせて私を見た。