第263話 職人と研究者
「なるほど。この技術は我の知らぬものであるな」
「ふむ、だいぶ手先が器用だな。ずいぶんと知識があると思っていれば、まさか有名な研究者様だったとは驚きだ」
「称号などたいした意味を持たぬ。それよりも実際に研究をしたり、こうして物を作っている方が楽しいものだ」
「ははっ、違いないのう!」
グレゴさんにスヴィーさんのことを伝えたのだが、賢者という称号までは教えず、他国の研究者という認識となった。
スヴィーさんも権威を振りかざすつもりはまったくないので、職人気質のグレゴさんと気が合うらしい。
異世界でもこういった物作りに国境や種族などの壁がなくてとても嬉しい。なんなら俺も混ざりたいくらいだけれど、これから他の場所へ挨拶しに行かなければならない。
「それじゃあスヴィーさん、俺たちは先に行くね」
「ああ、すまない。グレゴ殿を紹介してくれて感謝する」
どうやらスヴィーさんはこのまましばらくグレゴ工房に残るらしい。俺が思っていたよりもグレゴさんと気が合ったようだ。
「はあ~本当にスヴィーさんは魔道具や物作りにしか興味がないんだね」
「おもちゃを目の前にした子供のようになっていたぞ。ルーンゴーレムを操作していた時のようにすごい集中力だったな」
ランジェさんとリリアの言う通り、本当にスヴィーさんの探究心はすごかった。
「あれだけ夢中になれるのもいいよね。一応それ以外の目的だったルーンゴーレム用の鎧をグレゴさんにお願いしたんだけれど、そっちの方も忘れていないといいんだけれどなあ」
今回はスヴィーさんにグレゴさんを紹介することが一番の目的だったけれど、実はもうひとつ目的があった。みんなとも相談した結果、新店舗の入り口に護衛を置いた方がいいという結論に至った。
そこでスヴィーさんのルーンゴーレムにプレートアーマーを着させて新規店舗の入り口の前に立ってもらう。ルーンゴーレムは大きいし、全身に金属製の鎧を着ればかなりの威圧感が出る。
「あのルーンゴーレムは力もあるし、かなりの強さもあるから、店の前にいる護衛としてはうってつけだね」
「鎧を着たり剣まで扱えることを知ったらフェリーも驚くだろうな」
新規店舗は大きくなったし、万引きや良からぬことを考える者もあらわれるだろう。実際に店の前でずっと護衛をしているのはすごく大変になるのだが、スヴィーさんのルーンゴーレムは疲れを感じないらしいからな。
店でリリアのロングソードを振ってもらったが、十分に扱えることができた。改めてこんなすごい魔法を店員として使っていいのかなとは思うけれど。
「スヴィーさんのおかげでいよいよ新規店舗のオープン準備も万全だ。明日はみんなも店に来るから、実際にオープンした際の練習をしてみよう。明後日は新しくスヴィーさんが従業員になってくれたことだし、広くなった新規店舗の中庭でみんなを誘って歓迎会だな」
「うん、楽しみだね!」
「ああ、このあとはそのために市場で買い物だな」
新規店舗の準備をしつつ、スヴィーさんが新しく従業員として加わったことだし、この店の恒例の歓迎会だ。最近は招待する人数が多くなったこともあって、街の外の河原まで移動していたが、新規店舗の中庭なら十分に入る。
スヴィーさんの歓迎会に加えて、新規店舗のお披露目といこうじゃないか。今日はこのあとその準備のための買い物と、お世話になっている人たちにそのことを伝えにいく。
毎回急なお誘いになってしまって申し訳ないけれど、できるだけ参加してくれるといいなあ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「さて、今日は新規店舗で実際に練習をしてみよう」
「緊張するです……」
「店がだいぶ広くなったからな。覚えることはたくさんありそうだ」
「商品の位置や新しい商品の値段も覚えないといけないわね」
今日はフィアちゃん、ドルファ、アンジュを交えて新規店舗のリハーサルだ。
「中庭にも新しい商品を配置しているから、商品の使い方を聞かれる機会も多そうだな」
「それに今回は普段の新商品を販売する時の何倍ものお客さんが来てくれそうだもんね。混雑にならないように気を付けないと」
「どうやら多くの者が来店するようだ。我もしばらくは集中して店のほうを手伝うとしよう」
リリア、ランジェさん、スヴィーさんもやる気はバッチリだ。
ランジェさんもオープンからしばらくは冒険者の仕事を休んでこの店を手伝ってくれるし、スヴィーさんもしばらくはこちらのお店の手伝いを優先してくれる。
方位磁石や浄水器などの需要のある商品は冒険者ギルドで販売してもらっていたとはいえ、一月アウトドアショップを休んでいただけあってオープン時にはとんでもない数のお客さんが来店してくれることが予想される。
今のうちにできる限りの準備をしておくとしよう。