第262話 紹介
「テツヤ殿、おはよう。隣に引っ越してきたので、その挨拶に来たぞ」
「「「………………」」」
翌日の朝。スヴィーさんが包みを持ってやってきた。
昨日の話はやっぱりマジだったらしい。そしてこちらの世界にも引っ越しの挨拶みたいなのはあるようだ。
「おはようございます、スヴィーさん。ご丁寧にありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
スヴィーさんからご挨拶をいただいた。まさか昨日の今日で本当にお隣さんになるとはなあ……
まあ俺としてもお隣さんが知り合いの方がやりやすい面もあるし、元の住人との交渉も平和的にお金の力で解決したようだから、特に俺から言うことはないだろう。むしろとても喜んでいたらしい。
「うむ。末永くよろしく頼むぞ。べリアノブ王国の方には早速こちらから連絡をしておいた。ちゃんとこちらの連絡先や数年に一度は国に戻ることも伝えたぞ。なにか言われる筋合いもないが、ひと月ほどあれば返事も来るであろう」
おっと、仕事が早いな。もう連絡してくれたのか。
「わかりました。こちらも冒険者ギルドを通じてラターニア王国の方へ伝えておきますので」
こちらも冒険者ギルドのライザックさんとパトリスさんに頼んで、そのことを伝えておかなければならない。
昨日パトリスさんがアドバイスをしてくれたように方位磁石の作り方かベルマルコンから砂糖を精製する方法などを伝えて正式に国際交流を図るという手段もあると伝えておこう。
王妃様ならこちらの悪いようにはしないはずだ。どちらにせよ王都の冒険者ギルドマスターのルハイルさんを通じて国に報告してもらうので、そちらについてはルハイルさんに任せよう。ベルマルコンについてはまだ量産体制も整っていないし、国にも報告していないからな。
「よろしく頼む。テツヤ殿、早速ですまないが、例のソーラーパネルとライトという物を5つずつ売ってほしいのだが」
「ええ、もちろん構いませんよ」
従業員には俺の能力で購入した物を原価で販売しているということもあって、早速5つずつもほしいようだ。
やはりこれまでは俺に遠慮をしていたっぽい。きっと分解やら実験やらいろいろしてみたいことがあったのだろう。
「引っ越しの荷物とかは大丈夫ですか? おかげさまでこちらの新規店舗の準備はほとんど終わったので、なにかあれば手伝いますよ」
数日間かかると思っていた新規店舗のオープンの準備がたったの1日で終わってしまったし、オープニングスタッフを雇うための面接なんかも一気に解決した。
みんなと相談をしてすでに3日後に新規店舗のオープンをすると告知してあるし、あとはいろいろと準備や挨拶をしていくだけで多少時間には余裕ができた。
「それはありがたいな。すでに研究をするための設備は設置してあるが、細々とした日用品なんかを買いに行きたい。まだこの街へ来てから日が浅いこともあって、そういった店に心当たりがないので案内してくれると非常に助かる」
「はい、僕に任せてください!」
「すまないな、ランジェ殿」
「「………………」」
まっさきに手を挙げたのはランジェさんだった。まあ確かにそういったことは俺よりもランジェさんの方が詳しいところもある。オシャレな日用品関係はランジェさんに任せるとしよう。
「それとこの店を建てたグレゴさんも紹介しておいたほうが良さそうですね。研究に必要な道具なんかを作ってもらえそうですし、俺が別の世界から来たことも話しているので、そちらも相談できると思いますよ。すでにいくつかの商品はこちらの世界の素材で作ってもらっていますからね」
「おお、それはありがたい!」
グレゴさんにはすでにキャンプギアをいろいろ渡して再現してもらっているし、お互いに学ぶこともきっとあるはずだ。
……それに研究者であるスヴィーさんと職人であるグレゴさんは結構似ているところもあるし、たぶん意気投合しそうな気がする。
「こんにちは、グレゴさんはいらっしゃいますか?」
「はい、テツヤさん。少々お待ちください」
午前中はリリアとランジェさんと一緒に市場を回って、スヴィーさんの家で必要な生活用品を購入し、冒険者ギルドに報告をした。
そのまま午後はグレゴ工房へやってきて、グレゴさんの作業場へ案内してもらった。
「おう、テツヤ。どうかしたのか?」
「商品の方をありがとうございました。おかげさまで3日後の新規店舗のオープンに必要な十分な量を準備することができましたよ」
「それはよかったぞ。新しい商品の開発や他の商品の量産も進めているから、そっちは順番にテツヤの店へ運んでいくからな」
「はい、ありがとうございます。今日はこちらの方を紹介させてもらおうと思ってきました。ええ~と、一応うちの店で働いてくれる予定なのですが……」
「スヴィーだ。テツヤ殿からグレゴ殿のことは聞いている。我も魔道具や道具には非常に興味があるので、今後ともよろしくお願いしたい」
「ああ、新しい店を開くから従業員も新しく雇ったのか。若いお嬢ちゃんなのに物作りに興味があるとは珍しいのう。こちらこそよろしく頼む」
う~ん。スヴィーさんは他国の賢者で、若いお嬢ちゃんでもないのだけれど、説明がなかなか難しい……