第261話 条件
【お知らせ】
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いよいよ明後日の16日よりこちらの作品の第2巻が発売されますので、何卒応援をよろしくお願いいたしますm(_ _)m
来週の22日より別作品のキャンピングカーの第2巻も発売されるため、明日から番外編のコラボストーリーを3日連続で公開しますので、こちらもぜひ読んでみてください!
「そんなわけで、賢者であるスヴィーさんがうちの店で働きたいと言ってくれているのですが、問題ないでしょうか?」
「「………………」」
そして翌日。早速冒険者ギルドへ赴き、スヴィーさんのことを相談しに来たのだが、ライザックさんもパトリスさんも俺の話を聞いて呆然としていた。
そりゃ他国の賢者様がいきなりうちの店で働くとか言い出したら驚くよな……
「テツヤさんの出せる物に興味があると思っていましたが、まさかそれほどまでとは……」
「研究者ってのは本当に一度決めたらすぐに行動に移すもんだが、さすがに驚いたぜ。なにかを企んでいるわけでもなさそうだし、冒険者ギルドからは何も言うことはねえが、向こうの国がなんて言ってくるかだな」
「やっぱりまずそうですか……?」
「少なくとも自国所属の賢者様が他国に常駐するのはよく思われないでしょうね。幸いべリアノブ王国とこの国の関係は良好なので、期限を区切るなどしっかりと相手国に筋を通せば問題ないとは思いますが」
「なるほど」
いくら最初にスヴィーさんが自由にしていいという条件で賢者を拝命したとしても、ある程度の筋を通す必要はありそうだな。少なくとも期限なんかは区切った方がよさそうだ。
「方位磁石の作り方を教えたり、ベルマルコンから砂糖を精製する技術なんかを交渉材料に使えたりはしないですかね?」
「ええ、それもありだと思いますよ。特に方位磁石の情報はどんな国でも歓迎されるでしょう。お互いの国の発展のために国際交流として正式にスヴィー様を招くのも良いかもしれません」
なるほど、昔の日本では国同士でお互いの医師や学者なんかを交換留学していたと学んだことがある。それならむしろお互いの国の利益になることだ。
どちらにせよ方位磁石の情報は他国にも伝えたいとルハイルさんにも伝えていたし、この機会に他国へ広めてもらってもいいだろう。
「この件につきましてはお互いの国同士で正式に話し合った方がいいでしょうね。私の予想ですが、お互いの国に利益のあるように運べれば大丈夫だと思いますよ」
「わかりました」
パトリスさんにそう言ってもらえるのなら、安心感がだいぶ増した。やはりこういったことはパトリスさんへ相談することに限るのである。
「というわけで、まずはお互いの国の了承を得るのがこちらからの条件となります」
「……承知した。確かに昨日は勢いで頼んでしまったが、べリアノブ王国にも配慮は必要であったな。期限を設けることも了承した」
冒険者ギルドでライザックさんとパトリスさんと話したあとに店へ戻ると、すでにスヴィーさんが待っていてくれた。2階へ上がって、みんなで相談したことをスヴィーさんへと伝えたところ、こちらの条件を了承してくれる。
やはり賢者と称されるだけあって、こちらにも配慮してくれたようで助かった。
「べリアノブ王国の方へは我から連絡をしておこう。期限は10年くらいのうちに戻れば良いかな?」
「「「………………」」」
そうか、スヴィーさんはダークエルフで長命種族だった。すでに300歳を超えているらしいし、人族との時間の感覚がズレていても仕方がないか。
「いえ、少なくとも1〜2年で一度は戻るとお伝えいただけるとありがたいです」
「むっ、そんなにも短い期間でなければならぬのか?」
「詳しくは国同士での話にもなるかと思いますけれど、人族からしたら1年でも結構長い方なので、一旦は長くともそれくらいに戻るとお伝えください」
さすがに10年間別の国に行ってくる、だとさすがに許されないだろうなあ。一応賢者を拝命する際、自由にすると言っていたとしても、長くて数年くらいか。
「それでは時間がまったく足りぬ。まったく、他国を巡り研究をするために賢者の称号を得たのにこれではまったくの本末転倒であるな……」
普通の商品ならできるかもしれないけれど、電化製品系を1年で完璧に解析するのは厳しいだろうな。俺がそっちに知識もあれば良かったのだが、電子回路なんかはさっぱりだ。
とはいえ、国家間が不仲になることは絶対に避けなければならない。スヴィーさんには悪いが、そこは守ってもらうことにしよう。
「その代わりに俺のアウトドアショップで購入できる商品は渡せますよ。元々従業員のみんなには原価で渡していましたからね。分解や実験なども自由にできますよ」
「おおっ、それはありがたい!」
俺がそう言うと、スヴィーさんは顔を綻ばせた。やっぱり分解とか実験とかをしたかったんだろうなあ。ああいうのはまずは中身を見てみるのが一番早いが、俺に気を遣って渡した商品だけで研究をしようとしていたのかもしれない。
「そうと決まれば、早速引っ越しであるな。ちょうどこの店の隣の家を押さえたところだ。それくらいの範囲内であれば、我も研究をしながらルーンゴーレムでテツヤ殿の店を手伝うことができるぞ!」
「えっ、店の隣に住むつもりなんですか!?」
「うむ。すでに隣の家の者には平和的に話を通してある。現在の相場の10倍で家を買い取ると交渉したところ、快く了承してくれた。テツヤ殿の許可が取れ次第そうするつもりであった」
「「「………………」」」
なにその行動力!?
もしかするとこの国にしばらくいることはスヴィーさんの中では決定事項だったのかもしれない……
店の隣とか相場の10倍とか、本当に行動力がすごすぎるぞ……