第259話 便利な家電
「スヴィーさん、今日はありがとうございました。おかげさまでたった一日で開店準備のほとんどが終わりました」
「それはなによりである。こちらもテツヤ殿の世界の道具を検分できて非常に有意義であった」
どうやらスヴィーさんは一日中いろんなキャンプギアを見ていたようだ。それをしながら5体ものゴーレムを操って手伝いをしてくれていたので、本当にすごいよな。
「テツヤ殿、いくつか聞きたいことがあるのだが、聞いてもいいだろうか?」
「ええ、もちろんですよ。ただ、ご飯を食べてからで大丈夫ですか? スヴィーさんもよかったらぜひ食べていってください」
「むっ、もうそんな時間であったか。もちろん大丈夫である。そして、すまないが我の分もよろしく頼む」
今日はスヴィーさんのゴーレムにはだいぶお世話になった。ご飯くらいお安いご用である。
他の従業員のみんなはすでに帰宅しているから、リリアとランジェさんと俺を含めた4人分だな。
「ふ~む、それにしてもテツヤ殿の料理は本当に美味なるものばかりであるな」
「ああ。もちろんテツヤの能力で購入した料理もおいしいけれど、テツヤ自身が作ってくれた料理も本当においしいぞ」
「それにいろんな場所を旅してきた僕でも知らない料理があって驚くよ」
今日の料理は冷やしゃぶだった。一度茹でた薄切りにした肉をポータブル冷蔵庫で冷やして茹でた野菜の上に載せたものである。ランジェさんの氷魔法で冷やすと少しだけ水っぽくなるから、今回は冷蔵庫の方で冷やしてみた。さすがに冷やして食べる料理とかは珍しいだろうな。
「こっちの世界にはない料理を作ってみているからね。それにいろんな街を回ったこともあって、調味料も結構集まってきたよ」
冷しゃぶに使ったポン酢は自作である。出汁と醤油もどきと柑橘系の果汁を混ぜてある。こういった調味料もこちらの世界のみんなには珍しいということもあるのだろう。
「……それにしても氷魔法や魔道具とは異なって、誰でも使用できる道具か。これは本当に便利であるな」
スヴィーさんがポータブル冷蔵庫を見てそう言う。
この新店舗の部屋は前よりも大きいから、いろんな物を置けるようになっている。アウトドアショップの能力がレベル5になって、ポータブル冷蔵庫だけでなくテント内で使えるポータブルクーラーや暖房なんかもあるから本当に助かった。最近のキャンプギアは本当に便利な物が揃っている。
電力はというと、ソーラーパネルで発電した電力をポータブル電源に充電して使用している。カセットガスを使用したポータブル発電機で発電をしてもいいのだが、結構な量のカセットガスを消費してしまうので、ソーラーパネルとポータブル電源をたくさん購入して数でカバーしている。
ポータブル電源はキャンプだけでなく、災害時にも活躍できるから便利だぞ。ただ、ポータブル電源はちょっと高かったりする。良いやつだと10万円を超えるのもあるからな。キャンプに行く時には数万円レベルのもので十分である。……それでも高いんだけれどね。
「仕組みに関しては見当もつかない。電気というものの存在があることは理解できたが、魔法も使わずにどうやって電気を作ったり、貯めたり、使ったりするのか本当に謎だ」
「電気については俺の世界に住んでいる人でもそこまで理解せずに使っていますからね。俺もあまり説明できなくてすみません」
「いや、それもある意味では当然だ。我らも魔法というものを完全に理解して使用している者など存在しない。長年魔法を研究してきた我ですら、魔法を完全に理解したとは口が裂けても言えぬからな」
言われてみると、電気以上に魔法の方が謎だよな。今日スヴィーさんが使っていた召喚魔法なんて何がどうなっているんだろう。そもそも質量保存の法則とかどこへ行ったって感じだもんな……
そして賢者と呼ばれている長命種族のスヴィーさんでも魔法を完全には理解できていないのか。
「テツヤ殿が出してくれた道具の一部は理解できたが、この電気を使用した道具を理解するためには相当な時間が必要であろうな」
確かにそれは難しそうだろうなあ。電子回路の仕組みとか俺もさっぱりわからない。電気を使用する完成品があったとしてもそれを再現するのも難しいだろう。唯一の救いは俺の能力で購入できるから、分解とかもできることだな。
長い間これらの商品を研究すれば、もしかしたらこういった製品を自分で作ることもできるようになるかもしれない。
ただ、ひとつ気になっていたのだが、スヴィーさんってどれくらいの時間をこの国で過ごせるんだろうな?
「……テツヤ殿、ひとつ頼みがある。しばらくの間、我をこの店で雇ってくれないだろうか?」
「えっ!?」