第257話 再現
「それにしても、まさかあれだけいろいろと作ってくれているとは思わなかったよ。2~3個新商品が増えればいいなあと思っていたのにね」
「グレゴ殿もだいぶ張り切ってくれていたようだな。それに弟子の職人たちの腕もだいぶ上がったと喜んでいたぞ」
グレゴ工房で新しい商品をいろいろと見せてもらい、気付けば結構な時間が経っていた。リリアも元冒険者で冒険者の目線で様々な意見をくれたのでとても助かった。
今は市場へ食材を買いに来ているところだ。
「それにしても、あのエアーマットというものはすごいな。空気を入れて膨らませるのはとても便利だ。あれなら荷物がかさばらないですむ」
「そうだね。だけどやっぱり素材が難しいみたいだよ。それにあの空気を入れるところはまだ時間が掛かりそうだ」
キャンプギアのエアマットには様々な種類がある。王都へ行く時のスレプの馬車で使っていたのはインフレーターマットと呼ばれるウレタンという柔らかい素材が入っているエアマットだ。特徴としてはウレタンと空気の両方入るので、寝心地がとても良いことだな。
ただ、事前にみんなで相談した結果、冒険者にとっては最も場所を取らないエアーマットが一番良いという結論になって、そちらを再現してもらうことになった。やはり荷物の多い冒険者はいかに軽くて場所を取らないかが重要である。
エアーマットの欠点は空気を入れて膨らませているから破損しやすいことだ。下に尖った石なんかがあれば、すぐに破裂してしまう。耐久力がありつつ、寝心地のいい素材を探すのに苦労しているらしい。
それに加えてあのバルブの部分を再現するのも難しいようだ。小さいけれど、あのバルブ部分もうまくできているからな。最近では足踏み式という口で空気を入れる代わりにマットへ付属しているポンプを踏むだけで膨らませるキャンプギアもある。エアーマットの最終的な目的はそこになりそうだ。
「あとタープは問題ないし、コットも問題なさそうだ。まあ、コットの方はそれほど需要はないかもしれないけれど」
「確かにテツヤが気にしていたことはあまり気にしない冒険者が多いだろうな」
コットとは簡易式のベッドのことだ。フレームを組み立てて、そこに布を張りその上に寝袋で寝る。
地面からの冷気を防いでくれるため、より暖かく眠ることができるというキャンプギアだ。また、地面からの凹凸もなくなり、虫なども上がってこられなくなる。
だがリリアの言う通り、この世界の冒険者はその辺りをあまり気にしないからな。まあ、簡易的なベンチとしても使用できるから、とりあえず販売してみてといった感じだな。
他にもまだまだいろんなキャンプギアがあるし、グレゴ工房には当分お世話になりそうだ。とはいえ、鍛冶の仕事もあるだろうし、のんびりと進めてもらうとしよう。
「ただいま、ランジェさん」
「おかえり、テツヤ」
買い物を終えて新規店舗に帰ると、お店の1階でランジェさんがゴーレムたちと一緒に商品を並べてくれていた。
「ランジェさんも手伝ってくれていたんだ。明日からみんなでやるからよかったのに」
「ああ~気にしないで。スヴィーさんはすごく集中してテツヤの出した物を見ているから、口説く隙が全然なくってさあ……」
「「………………」」
そういうことだったか……
どうやらスヴィーさんは一度集中したら、他のことが目に入らなくなるタイプらしいな。研究者とグレゴさんみたいな職人さんは似ているのかも。
「晩ご飯を作るからちょっとだけ待っていてね」
「うん、了解だよ」
「ほう、これは美味であるな! 長年生きてきたつもりだが、このような料理は初めて食べたぞ!」
「これは唐揚げといって、衣を付けた肉を熱した油に浸すという俺の世界の料理です」
今日のご飯は唐揚げだ。ここ数日は野菜をあまり食べていなかったから、野菜炒めも多めにしてある。
リリアやランジェさんも揚げ物料理を食べたことがなかったし、まだこの世界にはそういった料理はないのかもしれないな。
「こちらのスープもとても美味だ。本当にテツヤ殿は料理が上手なのであるな」
「こっちのスープはインスタントスープという俺の世界の商品です。棒状ラーメンのスープと同じで、お湯に溶かすだけで簡単にこの味になるので便利ですよ」
「なるほど、本当に師匠とテツヤ殿の世界の料理には驚かされるばかりだ」
スヴィーさんは俺やリリアが帰ってきたことにも気付かないくらいキャンプギアを見るのに集中していたな。それとは別にゴーレムを操作しているのだから、どういう頭の中をしているのか不思議である。
晩ご飯を作って、何度か耳元で声を掛けるとようやくこちらに気付いてくれた。
そういえば俺も昔初めてテレビゲームをやった時は集中し過ぎて何度か声を掛けられてもまったく気付けなかったぞ。それくらい興味を持ってくれていたのだろう。
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