第254話 オープンの手伝い
「朝早くからすまないテツヤ殿。またよろしく頼む」
「はい、スヴィーさん」
今日も朝からスヴィーさんが来てくれた。
「それでは昨日話していた通り、今日は俺の能力で購入したいろんな商品を見てみましょうか」
「うむ! とても楽しみだ!」
昨日は俺の世界のことをずっと話していたので、今日は実際に俺のアウトドアショップの能力で購入したキャンプギアなどを見てもらう。どうやらスヴィーさんは魔法を極めただけでなく、魔道具やこういった道具なんかにも興味があるようだ。
昨日見せたライトなんかの他にランタンやポータブル冷蔵庫、発電機、ソーラーパネル、ガスバーナー、ポータブルヒーターなどといったスヴィーさんが気になりそうなキャンプギアがたくさんあるからな。
「ただちょっと申し訳ないのですが、午後からいろんなところに挨拶へ行かないといけないので、午前中まででお願いします」
「むっ……そうか。テツヤ殿にも予定があるだろうし、仕方がないな」
少し残念そうな顔をしているスヴィーさん。今日はこのあとグレゴさんといろいろと相談したり、いつも木筒を洗ってもらっている宿屋のおっちゃんやロイヤたちや知り合いの人たちに王都から無事に帰ってきたことを伝えて、王都で購入してきたお土産を渡す予定がある。
「すみません。その代わりに俺の能力で購入した物を渡しますので、ぜひご自身でいろいろと試してみてください」
「本当か! 感謝する!」
スヴィーさんは収納魔法を使えるようだし、自分でもいろいろと俺の世界のキャンプギアを見てみたいだろう。なんなら分解してもいいように2個ずつ渡してあげよう。
俺も子供の時はいろんな物に興味を持って、そこらへんの物を分解して母親に怒られたものだ。知らない仕組みを知るということもいい勉強になる。
「もしかすると、これらのキャンプギアは魔法や魔道具で再現できるかもしれないですからね」
「なるほど、確かにそれは面白そうであるな!」
「へえ~確かにテツヤの世界の道具が魔道具で再現できたら面白いかもね」
「ああ。あのライトなんかは夜にはとても便利だぞ」
俺の言葉にスヴィーさんだけでなく、ランジェさんとリリアも同意してくれる。
「あのポータブル冷蔵庫は氷魔法が使えない人にも使えるので、とても便利ですわ」
「扇風機という道具もあると涼しくていい」
テントやアウトドアチェアやローテーブルみたいな金属などの加工によってできるものは鍛冶師であるグレゴさんが作ることはできるけれど、電力を使用する物はできないらしい。
この世界には魔力や魔道具が存在するわけだし、うまく電力の部分を魔力に変換することができれば、この店でも堂々と販売することができるもんな。ライトや冷蔵庫なんかはこちらの世界でも需要がありそうだ。
「ただ見ての通りこの店は改装中で、明日からも新規オープンの準備をしなければいけないので、あまりスヴィーさんの質問に答えている時間がなさそうなんですよね……」
「……むう、テツヤ殿たちも生活があるし、それも当然であるか。承知した」
スヴィーさんには悪いけれど、この店のこともあるからな。そろそろ新規店舗オープンのことについても考えていかないといけない。
「ふむ、テツヤ殿には師匠の世界の情報をもらったし、昨日はとても美味なる食事をいただいた。そしてなによりテツヤ殿の能力で購入してもらう道具はお金には変えられぬものばかりだ。これらの代金を払うのはもちろんのことだが、我にもいろいろと手伝わせてくれぬか?」
「えっ、手伝うってこの店のオープンの準備をですか? いえ、さすがにスヴィーさんにそんなことはさせられませんよ。それにアースさんの情報は俺にとっても値千金の情報でした。これでお互い様ですよ」
スヴィーさんからもらったアースさんの情報は俺にとってはとても大事な情報だった。この世界には俺の他にも元の世界からの転移者がいるかもしれないし、きっぱりと元の世界へ帰還することを諦めるきっかけにもなった。
これから渡すキャンプギアもそのまま渡すつもりだったぞ。
「いや、正確には我自身が手伝うというわけではなかったか。ほとんど我の負担になるわけでもないので、テツヤ殿は気にする必要はない。それに準備が早く終わればテツヤ殿の時間が空くという打算も少しあるからな」
スヴィーさんは正直だな。
しかし、スヴィーさん自身が手伝ってくれることではないらしい。どういうことだ?
「つまりこういうことである。召喚、ルーンゴーレム!」
「「「おおっ!」」」
スヴィーさんの足元に複数の魔法陣が浮かび上がり、そこから紋様の刻まれた人形が5体も現れた。
顔に表情はなく、土というよりは金属のような物質でできている。背丈はスヴィーさんよりも少し大きく俺より少し低い170センチメートルほどの大きさだ。
「召喚魔法を同時に5体も……」
スレイプニルやシルバーウルフを召喚するフェリーさんがとても驚いている。どうやら召喚魔法を5体も同時に召喚するのはかなりすごいことらしい。