第250話 寝坊
「ふあ~あ……」
目を開けると見慣れぬ天井が見えた。
そうだ、ここはアウトドアショップの新しい店舗だった。周囲を見渡すと、前よりも広い俺の部屋がある。昨日はかなり早く寝たつもりだったけれど、王都までの旅の疲れもあって、一瞬で眠ってしまったようだ。
新しい自分の部屋っていいよなあ。昨日は疲れ切っていたけれど、今更新しい店舗への実感が湧いてきた。家具も前よりもいろいろと置けるようになったから、新しい家具を購入しようかな。
そしてなにより、ここは借家じゃなくて持ち家ということも大きいのである。店と兼用ではあるが、俺もついにこんな大きな家を持てるとはなんだか感慨深いものがある。
「……うん、みんなはまだ寝ているみたいだな」
部屋の扉を開けて居間の方を見ると、まだ誰も起きていなかった。
昨日の夜は俺、ランジェさん、リリアとベルナさんとフェリーさんの部屋に分かれて寝た。俺とランジェさんが一緒の部屋で寝て、2人と1人に分かれて寝るか聞いたところ、3人同じ部屋でよかったらしい。相変わらず3人とも仲が良きことである。
新店舗は下のお店部分がだいぶ広いこともあって、各部屋が大きくなっている。そのため、ベルナさんとフェリーさんがマットと寝袋で寝てもそれほど狭くはなかったはずだ。
……こういう時はやっぱりガールズトークとかしたのかな? さすがにみんなも昨日は疲れていただろうから、俺と同じで早く寝たか。なんだかまだ眠いし、俺ももうひと眠りしようかな。
「ごめん、完全に寝坊しちゃった!」
「テツヤも疲れていたのだろうな。スヴィー殿がここに来るのは昼過ぎだし、問題はないだろう」
「テツヤが寝坊するなんて珍しいね」
普段からそこまで朝は強くないんだよね……ほんの少しだけ二度寝したら、そのままがっつりと昼前まで寝てしまった。みんなは俺を起こさずに待っていてくれたらしい。
「あんまり時間はないから、ぱっとできるレトルトにしようか。みんなはどれがいい?」
「僕は麻婆丼と牛丼がいいな!」
「私は中華丼と親子丼で頼む!」
「私は中華丼とカレーでお願いしますわ!」
「カレーと親子丼!」
おなじみであるレトルトシリーズだが、みんな2食ずつ希望している……
まあ、アルファ米を合わせても一食分は少なめだからな。お湯の方はランジェさんとフェリーさんの収納魔法によってすぐに用意できるので、もはやお湯を沸かす時間すらも必要ない。
魔法とレトルト商品を合わせれば、本当に楽で一瞬できてしまい、しかもうまいからな。あまり頼らないようにしているが、たまにはいいだろう。
「んっ!?」
「どうしたのランジェさん?」
レトルト食品を用意していると、突然ランジェさんが居間のドアに張り付き、窓から顔をほんの少しだけ出し、外の様子を窺っている。
「……テツヤ、どうやらもう来ているみたいだよ」
「えっ?」
「すまぬ、テツヤ殿の話を聞けるのが楽しみで、待ちきれずに来てしまった」
「いえ、お気になさらず。こちらこそ、昨日はこちらの聞きたいことだけ聞いてしまってすみません」
居間のテーブルには昨日冒険者ギルドで会った褐色肌の綺麗な女性であるスヴィーさんがいる。背丈的には女の子なのだが、その貫禄のある喋り方は見た目通りの女の子には見えない。そもそも300歳を超えているらしいしな。
どうやらランジェさんが気付くよりもだいぶ前からここまで来てくれていたようだが、約束していた時間よりも早いこともあって、俺たちに声を掛けられなかったようだ。
「スヴィーさん、こちらのお茶をどうぞ」
「すまない、感謝する」
「とんでもないです。今日もスヴィーさんと会うことができて光栄ですよ!」
「「「………………」」」
ランジェさんはランジェさんのようだな。まあ、まだ中学生か高校生くらいに見えるスヴィーさんだが、すでに300歳を超えているらしいし、ランジェさんは格好いいから事案に見られることはないだろう。いずれベルナさんとフェリーさんに素のランジェさんがバレた時と同じようになりそうだけれど。
それにしても、Aランク冒険者のベルナさんとフェリーさんが気付けず、賢者の称号を持ったスヴィーさんに気付くとはさすがランジェさんだな。ランジェさんは逃げたり隠密するのが得意らしいから、隠れている人には敏感らしい。
「ちょうど今から朝食兼昼食なのですが、もしスヴィーさんもまだ食べてないようでしたら一緒にいかがですか? ちょうどこの料理は俺の世界の料理ですよ」
まだスヴィーさんに俺のアウトドアショップの能力のことについては教えていないけれど、すでにみんなと相談をしてスヴィーさんに能力を話すことは決めている。
昨日あれだけの情報をくれたし、俺を害するような気もなさそうだからな。
「ほう、テツヤ殿は料理ができるのだな! それに師匠の世界の料理を食べられるのは素晴らしい。ぜひいただきたい」
どうやらスヴィーさんの師匠であるアースさんは料理ができなかったらしい。確かに元の世界では料理ができそうな人の方が多分少ないだろうな。
実際にはレトルト商品は俺が作った料理ではないから、ご飯を食べながら説明するとしよう。
最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます!
執筆の励みとなりますのでブックマークの登録や広告下にある☆☆☆☆☆での評価をいただけますと幸いです。
誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )