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第245話 師匠


「願ってもない。それでは関係ない者はこの部屋からご退出願おうか」


「ここにいる人たちは俺の故郷である別の世界のことを話していますから、このまま話していただいて大丈夫ですよ」


「……承知した」


 ここにいるみんなを退出させて俺に何かするという訳ではなく、単純に俺が異世界のことをみんなに話していないと思ったのだろうな。賢者ということもあって、こちらへの配慮も完璧なようだ。


 改めてギルドマスターの部屋の椅子へと座る。ここのテーブルと椅子は3人掛けが向かい合っている感じなので、向こうの椅子にはスヴィーさん、こちらにはリリア、俺、ライザックさんの順に座って、他のみんなはその後ろに立っている。……うん、周囲の威圧感がもの凄い。


「さて、テツヤ殿の話を聞きたいところであるが、まずは我のことから話すとしよう。テツヤ殿は先ほど別の世界と発言したことから、多少は我の話の信憑性があるとして話を聞いていると思うが、まだ完全には信じられないであろうからな」


 まさにその通りである。漫画やラーメンやカレーなんかのワードを知っていることから、元の世界のことを知っているのだろうけれど、先ほどは知り合いが知っていると言っていた。


 その人が転生者なのか、それとも又聞きでその人の話を聞いただけなのかは分からない。


「実際のところ、我はテツヤ殿の世界から来たわけでも行ったことがあるわけではない。我の師匠がテツヤ殿と同じ世界からやって来て、その話を我が聞いたのだ」


「……っ! その師匠の方は今どこに?」


 スヴィーさんの師匠が転生者だった!


 その人も日本から来たのか? いつ、どこで? そして元の世界に帰れたりできるのか? その師匠の方に聞きたいことが多すぎる。


「残念ながら師匠はだいぶ昔に他界している。テツヤ殿には期待させて申し訳ないが、師匠と会うことは叶わぬ」


「そうですか……」


 さすがにそこまで都合が良いことはなかったか。


「……発言を挟んでしまってすみません。だいぶ昔と仰ってましたが、もしかするとスヴィー様の師匠様はこの世界へやってきて、250年~300年ほど前に60代でこの世を去ったのではありませんか?」


「あっ……」


 後ろにいたベルナさんの言葉にひとり思い当たる節があった。王都のルハイルさんに調べてもらったこの国の転移者の情報だ。


「……師匠のことを知っておるのか?」


 スヴィーさんの顔が驚愕のものに変わる。まさかこの国の英雄がスヴィーさんの師匠だったのか。


 確かにこれまでに転移者の情報がまったくと言っていいほど集まらなかった。そうなると転移者の数自体が非常に少なく、俺たちが唯一知っているその人と同一人物である可能性もあったか。


「はい。私たちもつい最近知ったのですが、王都の図書館にドラゴンを倒したという記録が残ってましたわ」


「ふむ、師匠はそれほど大きな功績を残してはいなかったゆえ、記録など残っていないと思っていたな」


 スヴィーさんは懐かしそうな表情を浮かべる。


 ……でもちょっと待てよ。もしもスヴィーさんの言うことが本当なら、スヴィーさんも300歳近くってことになるのか? どう見ても俺より年下に見えるけれど、この世界ならあり得るのか?


 いや、それよりもスヴィーさんの師匠が本当に300年前にこの世界へ転移してきたとすると、さすがにおかしくないか……


「スヴィーさん。ひとつ質問なのですが、その方は故郷の乗り物の話とかをしていませんでしたか?」


「ああ。我にはとても信じられなかったが、魔法を使わずに馬車の何倍もの速さで走る鉄の塊である()や空を飛ぶ()()()という乗り物があったと聞いている」


「………………」


 やはりおかしい。少なくともこれでスヴィーさんの師匠が俺と同じ世界から来たことは確定したが、それは王都の図書館の記録にも残っていた300年も昔の話となる。その時代に漫画やラーメンなんかがあるのかと思って質問したが、少なくとも300年前には自動車や飛行機は存在しないはずだ。


「テツヤ、大丈夫か? やっぱりテツヤの故郷とは違うのか?」


 隣にいたリリアが心配そうに俺の顔を覗きこんでいる。


「いや、確かに俺の世界に車や飛行機は存在していたよ。ただ、それが発明されたのは300年も昔じゃないんだ。もしかするとやってきた時間軸がズレているのかもしれない」


「……時間軸?」


 ああ、確かに時間軸の話というのもこちらの世界の人にとっては難しい話か。


「ふむ、実に興味深い話であるな。つまり我が師匠とテツヤ殿はその世界の同じ時から我らの世界へやってきたが、師匠は300年前、テツヤ殿はこの時代に飛んできたということか。あるいは師匠とテツヤ殿の世界は完全に一致しておらず、かなり似ている別の世界である可能性もまだ残されてそうであるな」


 研究者である賢者のスヴィーさんには分かるらしい。そして彼女が言う通り、似た別の世界――並行世界なんかの可能性もあるわけか。完全にSFの世界になってきたな……。


 そして今のスヴィーさんの表情は先ほどよりもとても生き生きしていた。この表情を見るに、本当に師匠と同じ別の世界からやってきたという俺の話を聞きたいだけのように思える。


 なんにせよ、もう少しスヴィーさんの師匠の話を聞く必要があるな。


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