第239話 ダンジョン産の肉
「……こっちのレッドホーンベアはそこそこといった感じかな」
「うん、こっちのブラックワイバーンもそこそこだね」
俺がレッドホーンベアの串焼きを食べた感想を呟くと、ランジェさんがブラックワイバーンのスープを食べた感想を呟く。
市場で食材を購入した後、みんなと合流をして屋台街のテーブルに座って昼食をとっている。
「ダンジョンに出現する魔物といっても、ダンジョンの外に出現する魔物と同じですからね」
「テツヤみたいにおいしく料理しているわけでもない」
ベルナさんとフェリーさんの言う通り、確かにそこそこおいしい肉ではあるが、ダンジョンの外に出現する魔物とそこまで大きな違いというものはないみたいだ。
味付けもシンプルな塩味のみだから、トータル的に見てもそこそこといった感想だ。これで高価な肉のほうなら、ホーンラビットとグリーンスネークは微妙なところだろう。
しかもこれで銀貨数枚するんだから、やはり少し高い気もする。いや、きっと普通ならかなりおいしく感じると思うのだが、王都で食べた高級宿の料理を堪能したのと、いつもベルナさんやフェリーさんたちが持ってきてくれる食材に舌が肥えてきてしまったというのもありそうだな。
「とりあえず食材はいろいろと購入してみたから、アレフレアの街に戻ったら試してみるよ。そういえばそっちの方は何か掘り出し物があった?」
俺やリリアたちは屋台の方を回っていたけれど、ドルファやフェリーさんたちの方は武器や防具、このダンジョンで得ることができた魔道具なんかを販売しているお店を回っていた。
「いや、確かに様々な物が売っていたが、王都で販売していた物よりも良さそうな物がなかったな。ガラクタ同然のような物も高値で販売されていたぞ」
「ダンジョンから出てくるものの中にはごく稀にとんでもない魔道具なんかが出てくる時もあるけれど、大抵はハズレ」
「なるほど」
ふむ、まさにトレジャーハントだな。
とはいえ、ダンジョンを踏破した時の報酬はかなりのものらしいので、ダンジョンを攻略する夢はありそうだ。
「さて、確認することは確認したし、食材も購入した。それじゃあアレフレアの街に帰ろうか」
ルハイルさんからの依頼であるダンジョン内での地図と図鑑の件は確認できたし、ちょっと高価だったけれど、ダンジョン産の食材も購入できた。
ここの宿は結構高いし、今日はクエトのダンジョンを出発して、野営をするとしよう。
「……さて、今日はここらへんで野営だね。スレプもいつもお疲れさま」
「ブルオオ」
馬車を降りて、馬車を引いてくれたスレプを撫でてあげると嬉しそうに声を上げる。大きなトラブルもなく、無事に今日の野営予定の場所まで到着した。
フェリーさんの召喚獣であるスレプのおかげで、普通の馬車を使うよりも早く移動することができて助かっているよ。
「それじゃあいつものように手分けをして野営の準備をしようか。そうだ、ランジェさんとドルファにはちょっと頼みたいことがあるんだよね」
「うん、いいよ」
「ああ、任せておいてくれ」
目的地へ着くと、いつものようにみんなで手分けをしてテントを張ったり野営の準備をする。だけど今日はちょっとランジェさんとドルファに頼みたいことがある。
2人にはまだ頼みごとを伝えてないのだけれど、快く了承をしてくれた。といっても、2人に頼むのはそれほど難しいことじゃない。
「これはクエトのダンジョンのお店で購入したホワイトブルの乳なんだけれど、まずはランジェさんの氷魔法でこれを冷やしてほしい。そのあとにドルファは冷やしたホワイトブルの乳を水筒に入れてひたすら振ってほしいんだ」
「ふむ。よく分からないがわかった」
ホワイトブルはクエトのダンジョンに出現する魔物ではなく、この辺りの特産品のようでそれほど高くはなかった。肉もそこそこおいしいらしいのだが、今回購入したのはホワイトブルの乳だ。
お店の人に話を聞いたところ、どうやらこのホワイトブルの乳からはバターを作ることが可能らしい。
実は元の世界でもバターの作り方は結構簡単だ。牛乳を遠心分離機にかけてよく混ぜ、乳脂肪分を多く取り出したものが生クリームとなる。そしてその冷やした生クリームに塩を加えて水筒やペットボトルへ入れてひたすらに振ると、液体状の中に固体であるバターが出来上がるのだ。
俺も詳しい仕組みは覚えていないけれど、生クリームの中にある薄い膜に包まれた乳脂肪を振ったりかき混ぜたりすることによって、その膜が壊れて乳脂肪がくっついてバターになるんだったかな。
本来なら乳脂肪分の多い生クリームでないとできないのだが、このホワイトブルの乳をそのまま使ってできるということは、元々乳脂肪分が多い乳なのかもしれない。
「それとランジェさんの方は同様に冷やしたホワイトブルの乳をこっちのボールに入れて、ベルマルコンから抽出した砂糖を加えてこの泡だて器を使ってしばらく混ぜてほしいんだ」
「うん、僕もよく分からないけれど了解したよ。それってテツヤが馬車の中で作っていたやつだよね?」
「ああ、実はちょっと試してみたいことがあって作ってみたんだよ。まあすぐにできたけれどね」
お店でホワイトブルの乳を使ってバターができるということを聞いてから、試してみたいことがあって馬車の中で作ってみた。アウトドアショップの能力で針金のようなものを購入できたから、それを組み合わせればすぐだったな。
これもベルマルコンを使って高価だった砂糖が安く手に入ったおかげである。こいつは今日のデザートに使わせてもらうとしよう。
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