第235話 クエトの街(?)
「テツヤさん、見えてきましたわ」
「おおっ、あれがクエトのダンジョンのある場所か!」
馬車の御者席に座っているベルナさんが声を上げる。
窓の外を見ると、馬車の進む道の先にはたくさんの建物が見えた。
王都を出てから2日後、どうやらクエトのダンジョンまで到着したようだ。この2日間は特に大きなトラブルもなく、道中は順調そのものだったな。
「……なるほど。外壁なんかはなくて、大きな建物なんかもないんだね」
遠くに見える建物群を見ると、だいぶ他の村や街とは様子が異なっている。
「ダンジョンは攻略されれば跡形もなくなる。だからその周りにできる商店や宿は仮設の建物になる」
「ああ、そういうことか」
フェリーさんが俺の質問に答えてくれる。そういえば以前にそう言ってたか。
ダンジョンは最下層の階層主を倒すことができれば報酬を残して消滅する。ダンジョンがある間は人や物が集まるけれど、一度ダンジョンが攻略されれば、ここにある商店や宿を経営している人たちはすべて撤収するのだろう。
そのため外壁なんかはなく、必要最低限の木の柵が周囲にあるだけで、建物のほとんどは簡易な木造建てで2階建て以上の建物は少なめだ。
「本当に有用なダンジョンの場合は、ダンジョンの周囲にだんだんと本格的な建物ができて街になっていくんだよ」
「そこまでのダンジョンはほとんどないらしいぞ。大抵のダンジョンはこのクエトのダンジョンのように自由に攻略をして、誰かがダンジョンを攻略すれば周囲の建物はなくなり、人はいなくなるんだ」
「なるほどね」
ランジェさんとリリアが補足してくれる。
ダンジョンを中心として栄える街ねえ、ちょっと興味はあるかな。でも確かそういうダンジョンは最下層を封鎖して攻略できないようにするらしいから、夢とかはないかもなあ。
「おお~これはこれですごいね!」
「うわあ~人やお店がいっぱいで楽しそうです!」
「ああ。雑多な感じだが、多くの人が集まっているな。活気があって悪くない」
「ええ。なんだかこちらまで楽しくなってきますね」
クエトのダンジョンの周囲にできた街へと入る。街と言っていいのかは微妙なところだけれど、これだけ活気があって人や物があれば街と言っても過言ではないだろう。
フィアちゃん、ドルファ、アンジュも目を輝かせている。もちろん俺もいつも以上に興奮している気がする。
他の村や街とは異なり、クエトの街に滞在している人の大半は冒険者だ。そしてその冒険者をターゲットにしているらしき商人や食事処、宿屋の人らしき人が少しいるくらいだな。
「こういう雰囲気も悪くないよね。僕も久しぶりにダンジョン攻略をしてみたくなっちゃうよ」
「ダンジョン特有のこの雰囲気は悪くない」
「ええ。ダンジョン攻略は普段の依頼を受けるのとは違った緊張感と楽しさがありますわね」
ランジェさんたちダンジョン経験組がそんなこと言う。
確かに普通の依頼を受けるのとダンジョン攻略は全然違うのだろうな。
「王都の宿屋の1.5倍はするみたいだね。やっぱりだいぶ足元を見られているようだ」
「ダンジョンの周りは物価が高いからね。こればっかりはどこのダンジョンもそうなんだよ。その分ダンジョン内で得られるものはそれに見合うことが多いんだよね」
クエトのダンジョンの街に到着して、そろそろ日も暮れるということもあり、周囲の店を少しだけ回ってから宿屋へと入った。
ダンジョンは24時間開放されているらしいけれど、そこまで急ぐものではないから、今回ここに来た目的である地図と図鑑は明日ダンジョンに入って確認をする。
女性の部屋はどうなっているのかは分からないけれど、とりあえずランジェさんとドルファと一緒に泊まるこの部屋は木造の壁も薄くてそれほど広くない部屋にもかかわらず王都の宿よりも高かった。アレフレアの宿と比べると3倍近くしたぞ……
「……やはりダンジョンというのも微妙だな」
「まあ、こればかりは仕方がないのかもね」
ドルファがそう呟くのも分かる気がする。もちろん王都から一番近いダンジョンということもあるけれど、王都でも高いと思っていた物価がさらにだからなあ……
あまりにも宿代が高いから、リリアたちは野宿でもいいと言っていたけれど、今回の件でルハイルさんから金貨200枚をもらっているから、多少高くとも宿へ泊まることにしたわけだ。
様々なキャンプギアがあるから野営でもだいぶ快適とはいえ、屋根があって安心できる宿に泊まれるのは違うんだよな。
さて、明日はいよいよダンジョンに入って俺のストアの能力で地図と図鑑を購入してみるとしよう。どんな結果になることやら。
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誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )