第232話 金銭感覚
「最後はベルマルコンのことについてだね。テツヤくんから教えてもらった方法を私自身で試してみた。まだ自然乾燥はできていないが、確かに現時点で甘い砂糖の原型のようなものができたよ」
「おお、それは何よりです」
どうやらルハイルさんに教えたベルマルコンから砂糖を抽出する方法については問題なさそうだ。
「これについてはテツヤくんたちが王都を出発してしばらくしてから、商業ギルドに話を持っていき話を進めていこう。おそらくベルマルコンを育てている農家と契約をして量産体制を整えて販売を始めていくから、実際に販売を始めるのはもう少し時間がかかると思うよ。もちろんテツヤくんが話を持ってきたことは商業ギルドには伝えないことを約束しよう」
「はい、問題ありません」
さすがに俺たちが王都を出てからすぐにこの話を持っていったら、商業ギルドに俺たちが話を持ってきたことがすぐにバレてしまうだろうからな。
「この情報料についてはかなりの金額が見込まれるが、商業ギルドと話してどれくらいの利益が見込めるかを算出してからでも大丈夫だろうか? おそらく金貨数千枚は見込めると思うから、先に金貨1000枚ほど渡しておいたほうがいいかな?」
「い、いえ。後ほどで大丈夫です。先ほどの金貨200枚はいただきましたから」
先ほどのダンジョンでアウトドアショップの能力を試す報酬は先払いでもらっている。すでに新規店舗の支払いは完了していて、直近で金貨1000枚も使う予定はないし、後でまとめてでいいだろう。
俺の場合はアウトドアショップの能力でお金をチャージして持ち運べるからいいけれど、普通の人は金貨1000枚なんて持ち運ぶのも苦労するだろう。
それにしても、方位磁石の時もそうだけれど、あまりの大金にだいぶ金銭感覚がバグってくるな……もちろん王都でアレフレアよりも物価が高いこともあるけれど、商品を売るよりも元の世界の物を発明したり新たな発見することはかなりの金額になるようだ。
まあ、そういった情報を伝えて大金を得ることは他の人に目を付けられることでもあるから、今後は自重しないといけない。いろいろと遅い気もするが、一応話す人は選んで最小限にしているつもりだ。
「承知したよ。ベルマルコンの報酬については事情を知っているアレフレアの冒険者ギルドを通して渡すことにしよう」
「わかりました」
そういえば、ベルマルコンのことについてはまだライザックさんもパトリスさんも知らないんだよな。2人に説明したら、また驚かれることになるだろう。
とりあえずこれで王都に来た目的はすべて果たしたことになる。今日は昨日と同様に王都の市場を回ってお土産を買ったり、帰路の分の水や食料を購入するとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「それではテツヤくん、道中は気を付けてくれたまえ」
「はい、お見送りありがとうございます。こちらこそルハイルさんにはいろいろと丸投げしちゃいましたが、よろしくお願いします」
「ああ、引き続きよろしくお願いするよ」
そして翌日、王都を出発する際にルハイルさんとその付き合いの冒険者ギルドの職員が見送りに来てくれた。
「ルハイルさん、たくさんのお土産をありがとうございました」
「こちらこそありがとうね、ランジェくん。ぜひまた王都へ遊びに来てくれると嬉しいよ」
「はい、必ずまた来ます!」
数日前に王都へ来た時にたくさんのお土産を渡したお返しということで、ルハイルさんからいくつかのお土産をもらったランジェさんはご機嫌なようだ。
美しい刺繍の入ったハンカチと、細かく見事な細工の入ったグラスなど、ランジェさんが普段使いしそうな身近な物を選んでいるみたいだ。アレフレアの街では見たこともない技術で作られた物だし、多分王都のブランド品とかですごく高いんだろうな……
いや、贈り物の値段なんて気にする方が野暮だな。ランジェさんもものすごく喜んでいるみたいだし。
「ベルナ、フェリー、護衛をよろしく頼む」
「はい、もちろんですわ!」
「任せて!」
ルハイルさんがベルナさんとフェリーさんと握手を交わす。
アレフレアまでの帰路も来る時と同じで2人の護衛をお願いしている。
「そうだリリア、ちょっとだけいいかい?」
「ええ、もちろん」
よく分からないけれど、ルハイルさんに呼ばれてリリアが少し離れる。
リリアがBランク冒険者として王都にいた頃はギルドマスターであるルハイルさんにもお世話になっていたらしいが、何か2人で内緒の話があるのだろうか?
「んなっ!?」
2人で何を話しているのかはまったく聞こえなかったけれど、突然リリアが大きな声を上げた。
そしてそのまま2人でこちらの方へ戻ってきた。
「リリア、大丈夫?」
「な、なんでもないぞ! もちろん大丈夫だ!」
……かなり動揺しているし、耳がかなり赤くなっている。
どう見てもルハイルさんに何か言われたみたいだ。ルハイルさんの方はルハイルさんの方で少しニヤニヤとしながらリリアを見ている。
リリアも真面目な性格をしているから何かからかわれたのかもしれない。
「それじゃあ気を付けて。今後ともよろしくお願いするよ」
「はい、大変お世話になりました」
ルハイルさんと別れ、行きと同じようにフェリーさんの召喚したスレプが馬車を引いていく。