第226話 本題
「さて、これで人払いはすんだか。テツヤ殿、それにリリア殿といったの。ここからはそれほど畏まる必要はないぞ。まずは立ち話もなんであるから、あちらでのんびりと話そうではないか」
「「………………」」
騎士たちが謁見の間の外へ出ていくと、突然王妃様が口調を変えた。そして張っていた肩を降ろして豪華な椅子から立ち上がり、隣にあるテーブルと椅子を指差した。
「部下たちの手前もあるものでな。そなたたちも無礼講とまではいかずとも、多少は本音で話してくれた方が妾も嬉しい」
そう言いながら王妃様は横へ移動して席へと座る。
「いえ、さすがにそのような訳には……」
いきなりそう言われてもこの状況で本当に座っていいのだろうか?
「ふむ、聞いていた通り慎重な商人なようであるな。心配せずとも、妾からそなたたちに何かするつもりはない。むしろ先ほど言った通り、感謝しておるというのが本音である」
「……承知しました。それでは失礼いたします」
慎重というよりかはどうしたらいいか分からなくて座らなかっただけなんだけれどね。
リリアと一緒に王妃様の正面に座る。さすがに王妃様の護衛の騎士は王妃様の隣に立ったままでいる。銀の鎧に全身を包み、腰には長めのロングソードを差している。鋭い目つきをしており、歴戦の騎士という風格、王妃様の側近ということであれば、その強さもとんでもないのだろうな。
「改めて妾がミリッサである。こやつは騎士団長のメルトンであるぞ」
「……メルトンと申します」
どうやらメルトンさんはこの国の騎士団長らしい。
まあ、戦闘経験のない俺にとってはさっきの騎士の人たちとメルトンさんの強さの違いは分からないんだけどね。
「改めましてテツヤと申します。アレフレアの街で商人をしております」
「リ、リリアと申します! 店の従業員及びテツヤの護衛をさせていただいております!」
リリアもだいぶ緊張しているみたいだ。さすがに神経の図太い俺ですら、この国の王族の前ではさすがに多少は緊張してしまう。
「うむ。リリア殿は元冒険者であると聞いている。一時はこの王都でも活動していたようであるな。すまぬとは思うが、こちらでもいろいろと調べさせてもらっておる」
「……いえ、それも当然のことかと」
さすがにうちの店の従業員の情報は調べられているようだ。
「テツヤ殿についても調べさせてもらったが、アレフレアの街よりも以前の情報はまったく出てこなかったようであるな」
「私は日本という国からこの国まで来ました。そしてアレフレアの森の近くで魔物に襲われていたところを冒険者に救われた縁がありましてアレフレアの街に店を構えさせていただいております」
「ふむ、その辺りのことについてはすでに聞いておる。日本という国は分からぬかったがな。もちろんそなたたちを疑っているわけではないぞ。他国の者や我が国を害そうとしている者であれば、あれだけ便利な道具をわざわざこの国で販売する理由がない」
「ありがとうございます」
少しだけ安心をする。
実際のところ、異世界から来た俺はアレフレアの街以前の足取りなんて取れないから、他国のスパイか何かと誤解される可能性もゼロではなかった。
「さて、まずは先ほども伝えた通り、テツヤ殿の商店で販売されている道具はこの国に対して非常に利益をもたらしてくれておる。そのことについて、国としてとても感謝をしている。すでにアレフレアの街の冒険者ギルドにも伝えてあるが、もしも何か困ったことがあれば遠慮なく妾たちを頼ってほしい」
「はは! 私のような一商人にそのようなお言葉をかけていただき、とても光栄です。私たちの力では及ばないことがございましたら、お力添えいただけますと幸いです!」
「うむ。その際はアレフレアの街の冒険者ギルドか商業ギルドを通して連絡をするとよい」
おお、いざとなった時に王族の援助を受けられるのは本当に大きいな。アレフレアの街の冒険者ギルドでは対処できないような面倒な貴族でも、さすがに王族には逆らえないだろう。
もちろん、王族の力を借りた場合にはその見返りとして何を求められるか分かったものではないから、本当に最後の手段になるが。
「これで妾の夫からの伝えるべきことは伝えたのう。さて、ここからは妾個人の頼み事となる。すでにアレフレアの街の冒険者ギルドへ伝えていたが、例のドライシャンプーについて話をさせてほしい」
どうやら国からは本当にそれだけらしい。こちらが何かあった時に力を貸してくれるだけで、商品の作り方を教えたり、何かを強制されることはないみたいなのでほっとした。
そう言いながら王妃様は木筒を取り出した。おそらくあれにアレフレアで販売しているドライシャンプーが入っているのだろう。
「このドライシャンプーという化粧品はとても素晴らしいものであるぞ! 髪のべたつきが一瞬でなくなる上に素晴らしい香りまでする。妾の髪は他の者よりも固いので、これがあると非常に助かるのだ! アレフレアで購入して王都に届けさせてもよいが、購入制限もあるようだしテツヤ殿に直接話した方がよいと思って、テツヤ殿が王都へ来るタイミングで話をさせてもらったわけである」
王妃様は自分のウェーブのかかったブロンドの髪をこちらに見せる。確かにあれで髪質が固かったら髪の手入れは大変だろう。
先ほどよりも饒舌で話に熱が入っている。どうやらこっちの方が本題らしい。
……一応ドライシャンプーは化粧品ではなく、野営をしたりする冒険者のために販売したつもりだったんだけどね。とりあえず、国から何かを強制されることもなく、王妃様は最大限にこちらのことを尊重してくれているみたいだし、それならこちらも最大限応えるとしよう。
「承知いたしました。他ならぬ王妃様の申し出であれば、慎んでお受けいたします。そして、この度はこちらのドライシャンプーよりも優れたものを献上させていただきたいと思います」
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誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )