第225話 謁見の間
【本日発売】
いつも拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
本日こちらの作品の第1巻が発売しました!
続刊やコミカライズを目指していきたいので、何卒応援をよろしくお願いしたしますm(_ _)m
「いよいよか……」
「さすがに私でも緊張するな」
今俺とリリアはとても強固で豪華な装飾の付いた扉の前にいる。当然と言うべきか、見張りの騎士たちが俺とリリアの周りにいる。
そう、いよいよこの国の王族との謁見の時が来た。朝に宿へ使いの者が来て、俺とリリアだけで王城へとやってきている。豪華な馬車の中から見た王城はとても大きく、謁見の間までの廊下には粋を凝らした美術品や絵画があってだんだんとプレッシャーが大きくなってくる。
「しかしテツヤ、本当に同行するのが私でも良かったのか?」
「うん。どちらにせよ武器なんかが持ち込めないの聞いているし、それなら一番信頼しているリリアに一緒にいてもらいたいんだ」
「そ、そうなのだな!」
リリアが少し顔を赤くして目を逸らす。王族と謁見ということで、いつもの冒険者の服装ではなく、綺麗なドレスを着ている。俺の方はこの世界の礼服だ。
すでにリリアの武器であるロングソードは城の人に預けてある。王族との謁見の場にはひとりだけ同行が許されたのでリリアに同行をお願いした。俺としても一番付き合いが長く、いつも一緒にいてくれるリリアと一緒だと安心できる。
なんだか少しだけいい雰囲気になっているような気もするけれど、残念ながら今はそんな状況ではない。これからこの国で数番目に偉い人と会うわけだからな。
「それではテツヤ様、こちらへどうぞ」
「はい」
騎士の人が謁見の間の扉を開ける。
多分リリアが言っていたのは隻腕の自分でいいのかという意味もあったと思うが、事前にリリアのことは遣いの人に伝えてある。もしもこれでリリアに失礼なことを言おうものなら、王族のためにいろいろと考えてきたことについては最低限のものにするつもりだ。
そこではっきりと王族には何も協力しないと言えないところは俺の弱いところだけれど、さすがに国を敵には回せない。せめてもの意趣返しに献上するドライシャンプーを最低限にするくらいはしてやろう。
もちろん戦闘をすることは考えていないが、一応最終手段としてアウトドアショップで購入したものを使ってここから逃げ出す作戦は考えてある。アウトドアショップの能力によって購入したものは武器や身体検査をすり抜けることができるからな。
この国の王族たちの悪い噂は聞いていないから、馬鹿な真似はしてこないと信じたいけれど。
謁見の間へと入ると、そこにはこれまで以上に豪華絢爛な部屋となっていた。アレフレアの街ではまだ加工が難しいとされているガラスでできたシャンデリアのようなキラキラと輝いて明かりを照らしている魔道具ひとつとってもそれを物語っている。
扉から続く赤いカーペットの両側には銀色のピカピカとした鎧を身につけて武装した騎士たちが立ち並び、その先には美しく途轍もなく煌びやかなドレスを着た女性と、その横にはひとりの騎士が控えていた。
身体検査をして武器を預けた謁見の相手にここまで用心深くするのかとも思うが、それも相手がこの国の王族であればそれも当然かもしれない。俺とリリアは事前に聞いていた通りにゆっくりとカーペットを進んで、女性が座っている前の段差手前で止まる。
「アレフレアの街で商人をしているテツヤと申します。こちらは従業員兼護衛をお願いしているリリアです。此度は王妃様にお会いすることができてとても光栄です」
リリアと一緒に片膝をついて、頭を下げ右手を左胸に添えて左手は背中の方に添える。これが王族や貴族など目上の人に接する挨拶らしい。
「面を上げるがよい。妾はラターニア王国王妃のラターニア=サズ=ミリッサである。そなたがテツヤ殿であるか?」
「はい!」
言われたとおりに顔を上げると、そこにはひとりの20代後半くらいのまだ若い女性がいる。長くウェーブのかかった美しいブロンドヘア、瞳の色は宝石のような緑色で豪華なドレスを着ている。
彼女はこの国の王妃であるラターニア=サズ=ミリッサ様である。今回の王族との謁見は王妃様かその娘のどちらかだと思っていたけれど、王妃様だったようだ。
王子と王女をひとりずつ産んだにもかかわらず、まだとても若く見える。着飾って化粧もしているし、とても綺麗に見えるな。
「遠路はるばる王都まで来てくれて感謝する」
「勿体ないお言葉です」
王妃様の言葉に再び頭を下げる。
「テツヤ殿の商店で販売している方位磁石という道具は冒険者や商人にとって素晴らしい道具であると聞いている。そして冒険者ギルドにその作成方法を伝え、無事に生産が可能となったと聞いた。テツヤ殿のおかげで多くの民の命が救われることになったのだ。本当に感謝しておるぞ」
「はは! 改めて勿体ないお言葉です」
方位磁石のことは冒険者ギルドのルハイルさんから国に報告をしてもらっていたので、まずはそのことについて礼を言われた。
一介の商人が王妃様と謁見をして感謝の言葉をもらうことはそれ自体がとても光栄なことになるらしい。少し大袈裟なのかもしれないけれど、確かにうちの店の商品のおかげで助かった人は多少いるだろう。
「……ふむ、問題なさそうであるな。それでは皆の者は席を外してよいぞ」
「「「はっ!」」」
王妃様の号令でカーペットの両側に立っていた騎士たちが謁見の間を退室していく。
この部屋に残った者は俺とリリア、そして王妃様とその護衛の2人だけとなった。