第222話 可能な料理
「た、確かにこれは甘い砂糖だ。これはテツヤくんの能力によって購入した道具で加工したものなのかい?」
「いえ、道具についてはこちらの世界の物を使用しました。最後に乾燥させるのだけはベルナさんの火魔法を使ってもらいましたけれど、作り方さえ分かれば誰でもできるものです。この砂糖の生成方法はこちらの植物図鑑に書いてあった方法となります」
ベルマルコンから砂糖を抽出するのはこちらの世界の道具でも誰でも可能だ。弱火で炙った後に細かく刻み、その後に布で漉して煮詰めてから乾燥させるという複雑かつ面倒な手順が今までこのことが知られていなかった要因なのだろう。
俺にもよく分からないけれど、その手順のどこかで甘味が濃縮される過程が含まれているのだろうな。
「他の内容についても細かく見てみてみんなにも確認してもらいましたが、ポーションなどの一部の効果を引き上げることもできるかもしれません」
「それは素晴らしい」
ベルマルコン以上のヤバいものが植物図鑑にないかを改めて確認してみたところ、それ以上のものはなかった。さすがに世界を滅ぼすヤバイ物があったら、さすがにルハイルさんに打ち明けることはできなかった。
幸いと言うべきか、とあるポーションの工程に一部の工程を加えることで、多少の品質アップが認められるくらいだった。いやまあ、それでも十分にすごいことではあるんだけれどね。
「そういう訳で、これらの情報を提供するので、俺がこの情報を伝えたということを決してバレないようにしてほしいのです」
「……なるほど、確かにこの情報が洩れると、間違いなくテツヤくんの身に危険が迫るだろうね」
あっ、やっぱりそうなんだ……
うん、俺もその辺りのことはちゃんと考えているから、これ以上は新しく雇う従業員くらいにしか話すつもりはない。特に明日会う予定の王族なんかには絶対に秘密だ。
国がらみのことなんてまったく関わるつもりはない。とはいえ、地図や方位磁石なんかは冒険者や商人の生存率を上げられる道具でもあるし、できる限り広めていきたいから難しいんだよな。
そうなると俺の秘密を話せるのは王都の冒険者ギルドマスターのルハイルさん一人となる。……まあ、アレフレアの街ではライザックさんだけでなく、パトリスさんに話しても正解だったとは思っているが。
「承知したよ、テツヤくん。この件については他の者には教えずに私が独自で動こう。そうすれば他の者にテツヤくんのことはバレないだろう」
「ありがとうございます」
「ただそうなると時間が少し掛かってしまうかもしれないが大丈夫だろうか? どちらにせよ、テツヤくんたちが王都に来ている今から少し時間を置いてから動くつもりだったけれどね」
「ええ、時間よりも俺たちがこの話を持ってきたことを知られないことを優先してください」
どうやらルハイルさんがひとりで動いてくれるようだ。そして秘密を知る人が少ないほど、何をするにしても時間が掛かる。ただでさえルハイルさんは冒険者ギルドマスターで忙しいのだからそれも当然だ。
そしてルハイルさんの言う通り、今すぐ動いたのでは俺たちがベルマルコンから砂糖を抽出する方法をルハイルさんに伝えたことがバレバレなので、どちらにせよ時期はずらした方がいいだろう。
多少時間が掛かってしまっても、俺に面倒ごとが来ないことを優先してもらおう。地図や方位磁石のように人命が懸かっているわけでもないからな。
「承知した。それではまずは私がベルマルコンから砂糖を抽出できるか確認するところから始めてみるよ。とはいえ、私は人並みくらいにしか料理はできないのだが大丈夫かな?」
「はい。手間はかかりますが、ベルマルコンを焼いて煮て切ったりして乾かすだけなんで大丈夫だと思いますよ」
そうか、ルハイルさんひとりにしか教えないとなると、その辺りのことも全部ルハイルさんにやってもらわなければならないのか……少しだけ申し訳ない気がしてきたな。
「ふむ、それなら私でも問題なさそうかな。ベルナとフェリーだと少し微妙なところか」
「ええ~と……」
どうやらルハイルさんもベルナさんとフェリーさんが料理をできないことは知っているらしい。
ベルナさんもフェリーさんもまともに野菜を切ることすら難しそうだったもんな……フェリーさんはともかく、ベルナさんはロングソードを使って魔物を斬って解体作業もできるのに、包丁だとまともに野菜も切れなかった。
ベルナさんに聞いたら、野菜を切るのと魔物を斬るのとではいろいろと違うようだ。絶対に魔物を斬るよりも野菜を切る方が楽だと思うんだけれどなあ……
「ひ、人には得手不得手があるものですわ! パーティの戦闘と同じで、自分の得意なことで貢献できれば良いと思います」
「料理のできないベルナとフェリーがパーティを組んでいる時点で問題があるとしか思えないのだがな……」
「うう……」
「私だってインスタントスープや棒状ラーメンやレトルトカレーは作れる!」
「フェリー、それは料理とは言えないぞ……」
ド正論でベルナさんとフェリーさんを論破するルハイルさん。
うん、多分それはみんな思っていたことだが、Aランク冒険者のベルナさんとフェリーさんになかなか突っ込めないところだったからある意味助かる。これを機にベルナさんとフェリーさんも料理をしてくれるようになったりしてな。
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