第220話 秘密の共有
いつも拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
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「「………………」」
ルハイルさんの両隣にいた男性の冒険者ギルドの職員がルハイルさんをかばうように無言で前に出てくる。この2人もかなりガタイがいいし、元冒険者なのだろうか。
いや、違うんですよ……別にあなたたちが邪魔というわけじゃなくて、これからのことはできるだけ知る人を減らしたいというだけなんですよ。
「……えっと、でしたらリリアと俺だけでルハイルさんと話をさせてもらうのはいかがでしょうか?」
「ああ、必要ないさ。ほら、私の心配は無用だから、部屋の外で待っていてくれ」
「「はっ!」」
ルハイルさんがそう言うと、両隣にいた2人の男性はルハイルさんに敬礼をしながら、この部屋を出ていった。
……なぜか俺とランジェさんが睨まれた気がする。
「すまないね、まずは彼らの非礼を詫びよう。彼らは私のことになるとだいぶ心配性になってしまうんだ」
「いえ、とんでもないです。普通はいきなり冒険者ギルドマスターのルハイルさんだけと話させてくれなんて言われたら警戒するのが当然ですからね」
一介の冒険者でもない商人からそんなことを言われたら普通は警戒するものだ。俺の場合はこの方位磁石の実績と自分自身に戦闘能力が皆無なこと、さらに現役Aランク冒険者のベルナさんとフェリーさんがいてくれるからたぶん大丈夫だとは思っていたけれど。
どうやらルハイルさんは職場の人にも慕われているようだ。こういうのをカリスマ性というのだろう。
「そう言ってくれると助かるよ。この部屋は魔道具を使って完全防音となっているから、安心して話してほしい」
「分かりました。それと約束してほしいのですが、これから話すことは誰にも話さないようにお願いしたいです」
「……ふむ、残念ながらそれは約束しかねるね。もしもこれからテツヤくんの話すことが不正に誰かを害することになりそうな場合にはたとえ君たち4人が相手でも私は屈するわけにはいかないよ」
「いえいえ! そういう話ではないですから! むしろ多くの人の利益になる話なんですけれど、俺の身が危うくなるので他の人には話さないでほしいという意味です!」
ほんの一瞬だけルハイルさんからとんでもない威圧感を感じた。
前回も含めてとても良い付き合いをさせてもらっているのと、その綺麗な容姿に忘れそうになってしまうけれど、ルハイルさんは女性ながらもこの王都の冒険者ギルドマスターを務めているんだよな。
……そしてきっちりと俺は戦力としては見られていないようだ。うん、その辺りは自覚しているから大丈夫である。
「それは失礼したね。もちろんテツヤくんはそういう話を持ってくるわけがないと思っているけれど、どうしても冒険者ギルドマスターという立場上そういった不正を唆してくる輩が多いのだよ。そういった話でないのなら、もちろんここでする話は墓場まで持っていくと誓おうじゃないか」
「……なるほど、それは大変ですね。むしろそういうルハイルさんだからこそより信用ができます」
特に王都の冒険者ギルドだとそういった悪い勧誘も多そうだよな。どうやらルハイルさんはそういった取引には応じないようだ。汚職ばかり繰り返す元の世界の腐った政治家たちにルハイルさんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
それにしても、リリアもそうだけれど、この世界の人たちは本気で墓場まで持っていきそうなんだよね。本当に自分の命が危なくなったら俺の秘密を話してもいいんだが……
さて、それはそうと、ルハイルさんはこれを聞いてどういう反応をするのだろうか?
「実は俺は別の世界からこの世界にやってきました」
「……ふ~む、にわかには信じられない話だが、このような道具は初めて見る物ばかりだ。そして何よりも驚くべきはこの精密な地図だね。このような精密な地図はどのような魔法を使っても作り出すことができないと思うよ」
今はアウトドアショップのレベルが5に上がって、ガスバーナーやライトやら、この世界の魔法では説明できないものを購入できるようになっていたから、ルハイルさんへの説明もスムーズだった。
というか、他のみんなもそうだったけれど、あんまり異世界ということがピンと通じていないらしい。まあ、元の世界でも世界地図とかができていなかったら外国も異世界も似たようなものなのかもしれないしな。
やはりというべきか、異世界から来たということよりもアウトドアショップの能力で購入したキャンプギアや地図に興味津々のようだ。
「そうなんですよ。この地図もそのまま売り出したりしたら、いろいろと問題が起こってしまうので、その地図の中の主要な村や街だけを模写したこちらの簡易版の地図を販売するのはどうでしょうか? これなら冒険者や商人の役に立ちそうだと思うのですが」
「……そうだね。もしもこのような精密な地図が市場に出回ってしまったら、間違いなく国の者がその制作者であるテツヤくんを探し出すだろうね。そしてテツヤくんがいる付近の地図を作り出せると知ったら、テツヤくんを拘束して魔法で洗脳やら廃人にしてでも自国と他国の地図を集めようとするだろう」
「おふ………………」
セーフ!
地図が購入できるようになった時の俺グッジョブ!
ちゃんとライザックさんと……主にパトリスさんに相談しておいて本当によかった!