第212話 エイブラの街再び
「テツヤさん、エイブラの街へようこそ!」
「お久しぶりです、アントムさん」
無事にエイブラの街へ到着し、エイブラの街の冒険者ギルドへとやってきた。
冒険者ギルドマスターのアントムさんは30~40代の細身の男性だ。以前に王都へ行く際にこの街へ寄った際に挨拶をしたな。
「テツヤさんが卸してくれる様々な商品は冒険者にとても大人気です! 本当にありがとうございます!」
「それは良かったです」
王都の冒険者ギルドと同様にこの街や他の街の冒険者ギルドへも方位磁石や浄水器、インスタント食品などの商品を卸している。この街はアレフレアの街から比較的に近いため、馬車で商品を運んでいる。
「今回は明日も泊まられるということで、こちらで宿を用意させていただけましたので、どうぞごゆっくりお休みください」
「ありがとうございます、ご厚意に甘えさせていただきます」
前回この街へ泊まった時は1泊だけだったが、今回は新規店舗をオープンするまで余裕があるので、この街で2泊させてもらう。明日はゆっくりとこの街を回らせてもらうとしよう。
「相変わらず立派な宿だね」
「いやあ~こればかりは役得だよね! さすがに普段はこんな立派な宿に泊まれないもんね」
ランジェさんとドルファと一緒に晩ご飯の時間まで、今日泊まる宿の男性用の部屋でのんびりとしている。馬車に座っているだけでも身体がガチガチになってしまった。
アントムさんに案内された宿は前回この街へやってきた時に案内されたこの街で一番立派で華やかな宿だった。相変わらずキラキラした装飾品や高級そうな美術品が飾ってある、一目で高級だと分かる宿だ。
今回の宿代はこの街の冒険者ギルドが出してくれる。前回は王都の冒険者ギルドが費用を出してくれたのだが、今回はアントムさんが出してくれた。ランジェさんの言う通り、こればかりは役得だろう。小市民的な考え方だが、無料でこれだけの宿に泊まれて控えめに言って最高だ!
「さすがにこれだけ高級な宿となるとアレフレアの街にはないからな。これほどの宿ならセキュリティも万全だし、アンジュも大丈夫だろう」
「……ベルナさんとフェリーさんにリリアもいるし、宿のセキュリティもあるから絶対に大丈夫だよ」
女性部屋の方は女性陣5名が泊っている。Aランク冒険者の2人に元Bランク冒険者のリリアが一緒だから、ドルファが心配する必要はないだろう。
……というよりも、今はこの街で一番安全な場所な気がするぞ。
「そういえば、市場に例のベルマルコンは普通に売っていたね」
「ああ。しかも普通の野菜と変わらない値段のたった銅貨3枚で売っていたぞ」
「うん、本当に植物図鑑の写真のままだったね。しかも普通に安い部類の野菜だったよ」
この宿へやってくる前に市場へ寄らせてもらったのだが、道中ドルファが植物図鑑で見つけてくれたベルマルコンは市場で普通に売っていた。
アウトドアショップの能力で購入した魔物図鑑や植物図鑑は俺が購入した場所付近の魔物や植物の特性が書かれている。それによるとこのベルマルコンからは貴重な調味料である砂糖を抽出できるらしい。
「このベルマルコンから砂糖ができれば街で流通している砂糖もだいぶ安くできるだろうね。とりあえず明日厨房を借りて砂糖ができるか試してみよう」
「そうだね、もし砂糖が安く流通するようになれば、テツヤが出してくれたようかんやチョコレートみたいなお菓子がたくさん作られるようになるかもしれないね!」
「香辛料が安くなった時と同じように砂糖を使った新しいお菓子も出てくるだろうからね」
香辛料の魔法を使った栽培方法が発見された時と同じだ。今ではこの街のコショウなどの香辛料の値段は下がり、それを使用した新しい料理なんかも出てきた。おそらく砂糖でも同じようなことが起こるだろう。
「とりあえず明日は今日購入したベルマルコンでいろいろと試してみよう。それとは別に前回ちゃんと回れなかったこの街を回ってみたいところだね」
前回この街に来た時は本当に夕方に来て朝に出るだけだったからな。今回はちゃんと街を回りたいところだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……あとはこの煮詰めてドロドロになったこの液体を乾燥させれば完成か。なるほど、ちょっと面倒な手順があるから、普通に調理して料理に使っていたら気付けないのかもね」
そして翌日の朝、朝食を食べたあと宿の人にお願いをして厨房の隣の部屋の一角を借り、昨日購入したベルマルコンを砂糖へと加工していく。
手順としては皮を剥いたベルマルコンをしばらく弱火で炙った後、サイコロ状に刻んで強火で煮込み、それを布でこしたものを更に煮詰めて乾燥させるという面倒な工程が必要となるため、今までこの加工法が知られていなかったのだろう。
……本当にこの植物図鑑は便利すぎるな。アレフレアの街では治療に役立つ薬草の情報のみを冒険者ギルドを通して商業ギルドへ伝えたが、場所によってはこんなに重要な情報を得ることができるのだからやばい。