97、個人組手、がんばるぞぉ!
《間もなく、午後の競技を開始します。個人組手に参加の選手は・・・・・・》
がさごそ がさごそ・・・・・・ ぎゅっ
「・・・・・・さーて、と・・・・・・」
昼食を終え、葉月はバッグからメンホーを取り出し、組手の準備をしている。
「・・・・・・葉月」
「ん? なぁに?」
「・・・・・・頑張れよな」
「・・・・・・うん! 今日は、翔平に笑顔を見せて戻ってくるから!」
「頼もしいな! 信じてるぜ!」
「まっかしといて!」
翔平は、きりっと輝かせた葉月の目を見て、ふっと笑う。
「あーぁ。はーちゃんったら、もう、青春モードばっかりなんだからー」
「しゃーなかっぺ、りん。はづきは、しょーへーとは昔からの絆だっぺよ」
「そんなこと言ったってー。私たちだって、ショウ君とは昔なじみなのにさぁー」
「別に、うちやりんのことを無視してるわけじゃないんだからさー」
「まぁ、そーだけどね。ショウ君がそんなことするわけはないしー」
「それに、りんだって、薄々気づいてっぺ?」
「なにが?」
「しょーへーとはづきが、一段先を行く感じになってることをさー?」
「・・・・・・あゆのいじわるー。私に今、それを言うー?」
「言っちゃった」
「言うんじゃないってばぁ。私も、そこは、何となくわかってるんだからー」
「でも、はづきたちは偉かっぺ。けじめをつけて、全然イチャイチャしないもん」
「そりゃー、はーちゃんもショウ君も、そういうタイプじゃないもんー」
「・・・・・・本当に、はづきとしょーへーは、そういう感情なのかな?」
「え? どういうこと?」
「いや・・・・・・。うちが見るに、恋じゃなく、もしかして、何というか・・・・・・」
「??? はーちゃんとショウ君が恋じゃないなら、何なのよー」
「いや、それが、どー言っていいか表現が難しいから、悩んでんだっぺ」
「????? あゆー。私、混乱しちゃうよー」
「ごめんごめん。忘れてちょうだい、りん。・・・・・・さぁ、試合に集中だっぺ!」
「うん! よぉーし。私もあゆやはーちゃんに負けないよう、頑張るぞーっ」
翔平と談笑する葉月をよそに、りんと亜弓は二人でガッツポーズ。なぜかそこへ、香夏子と和花子も加わって、さらには文弥も加わって、もう一度ガッツポーズ。
最後は、長谷屋校長や松岡、田辺、福原和尚と五十嵐宮司も加わり、円陣を組むようなかたちで何度もガッツポーズを繰り返す。その様子を見て、睦子や哲史は大笑いしていた。
「亜弓もりんも、みんなで何やってるのよー」
「試合前の気合いを入れてたとこだっぺ。さぁ、はづきも入って入って!」
「やっぱり、はーちゃんがいないと、締まらないからね!」
「姉ちゃん、ほらー、はやくはやく!」
「葉月ちゃんがいねーと、始まらねぇよー。さぁ、ここへ入るとよかっぺ!」
松岡が、葉月を円陣の中央へぐいっと引き寄せた。
茨城県陣営の観覧席に、段々になった大きな環ができ、葉月の声を皮切りに一斉に声が轟いた。
「ぜったいにぃーっ・・・・・・てっぺん獲るぞぉーっ!」
「「「「「 おおぉーっ! がんばろぉーっ! 大荒井中、ファイトォ! 」」」」」
水平線の彼方まで通るような葉月の声に続いて、亜弓やりん、そして応援団のみんなが肩を叩き合って気合いを入れた。
「「「「「 がんばれーっ、葉月ちゃん! 亜弓ちゃん! りんちゃん! 」」」」」
この声を一気に浴びた葉月は、まるで水を得た魚のように目を輝かせ、「頑張ります!」と大きな声で返事をし、ショートカットの髪をぱあっと靡かせ、帯をきゅっと締め直す。
亜弓も、ぱあんと音を鳴らして帯の両端を引っ張り、「やってやっぺ!」と拳を天井に向かって突き上げた。
りんも、昨日の団体戦とは比べものにならないほどの気迫を込めた目になり、拳サポーターをぐっと強く握って「全力で頑張ります!」と一礼した。
「・・・・・・ケガしないようにね。葉月も、亜弓ちゃんもりんちゃんも、がんばって!」
睦子は三人へにこっと笑いかけると、葉月の頭を軽く撫で、背中をぱんっと叩いて送り出した。徹と哲史も、娘たちを笑顔で送り出す。
「ありがとうね、おかーさん! ・・・・・・いってきます!」
「父ちゃん、大暴れしてくっかんね!」
「パパ。私の中学最後の試合、よーく見ててねっ!」
「さぁーて、全力で出し惜しみ無くあばれるよ! 行こう! 亜弓! りん!」
「うんっ! はづきもりんも、全員ベスト4入りね! 約束だかんね!」
「はーちゃんもあゆも、序盤でコケないでよね? めいっぱい楽しもー」
「そうだね! 大荒井中、出陣ーっ! 海道館道場の空手を見せつけようーっ!」
「「 おーっ! 」」
葉月たち三人は、意気揚々と選手招集所へ向かって走っていった。




