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潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第15章  汗と涙と笑い声 少女たちの熱い夏 
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95/128

95、火花散る女子個人形!

   ワアアアアアアアアアアアアアアア

   がやがやがやがやがやがやがやがや


   ~~~ セーパァーイッ ~~~

   ~~~ セイエンチィーンッ ~~~


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!

   ワアアアアアアアアアアアアアアア


   ~~~ ジオーンッ ~~~

   ~~~ チントォーッ ~~~


 二日目は簡単な開会式が行われ、その後は各コートで個人形競技が繰り広げられている。

 各流派の特徴を活かした様々な形が演武され、予選の篩いにかけられた選手たちは、続々と決勝戦へ。

 女子個人形は、予選を絢子が一位で通過。二位は同点であかねとみかん。四人目に小紅が同点二位の二人とわずか0.1の差で通過という大接戦の様相に。

 葉月たち大荒井中メンバーは個人形には出ていない。茨城県代表の選手は三人とも、惜しくも予選九位から十一位となり、八名残しの決勝戦へは進めなかったようだ。


「はーちゃん。見て! この個人形レベルの高いこと高いこと・・・・・・」

「そうだねー。決勝、みんな何の形を演武するのか、楽しみだねーっ」

「はーぁ。うちも、あんな風に、形がうまかったらなぁー・・・・・・」

「いいじゃないの。亜弓の形も、それなりに味はあるんだしさー?」

「でも、うち、あんまり形は覚えが良くなくて。けっこう、悩んでんだっぺ」

「あゆは、きっと、大器晩成型でこれからうまくなるんだよー」

「そうだといいんだけどな。・・・・・・ま、今日は観戦して、楽しむとすっぺ」


 茨城県陣営の観覧席から形試合を観ている葉月たち。

 翔平が葉月に「あの形は何?」と聞けば、すぐに「○○流の形で、□□が特徴で」と解説をする。横では、文弥が真剣に頷きながら姉の解説を聞いている。


「あ! 小紅さんだ。たしか、予選は四位だったのに、決勝戦は一番手なのか?」


 コートに入る小紅を見て、翔平が香夏子たちと指さした。葉月はそれに応える。


「不公平にならないよう、ランダムにシャッフルしたんだね」

「そうなのか。てっきり、予選で点が高い人がラストかと思ったぜ」

「それだと予選上位の先入観が入るから、シャッフルするようになったんだよー」

「そーなんだぁー? ・・・・・・ねぇ、すずっち。誰が優勝しそうなのー?」

「うーん。微妙だなー。みんな、どんな形をやるのかにもよるけどさぁー・・・・・・」


 葉月たちが喋っている間にも、決勝戦は進んでゆく。

 小紅はコートに入り、ゆっくりと一礼。そして、一気に目をくわっと開き、周囲の空気を一瞬で緊張感のあるものへと変えた。


「ニーパイポォーッ!」


   ・・・・・・すうっ

   すすっ  スパァンッ

   すすす  パァンッ!  タァンッ!


 糸恩流の代表的な形、二十八歩。ゆっくりと動いていたかと思えば、四方八方に攻防を繰り広げ、大きく羽ばたく鶴のような動きを見せて、また激しく舞い踊るかのように技を繰り出す形。

 小紅は、まさに白鶴が舞うがごとき動きで、ミス無く演武を終えた。


「・・・・・・判定ーっ!」


   ピーッ!  ピッ!


「主審、8.2! 一審、8.3! 二審、8.2! 三審、8.3! 四審、8.2!」


   ・・・・・・ピッ!


「・・・・・・柏沼北中学校 早乙女小紅選手、ただいまの得点! 24.7ッ!」

「(あたしが思ってた点より低いな。やっぱり、一番手じゃ、こんなもんかな・・・・・・)」


 一番手の小紅の点数が、この決勝戦におけるひとつの基準となる。絢子、みかん、あかねは、コートを出る小紅をじっと見つめ、それぞれ無言でまた目を逸らした。

 二番手、三番手は鳥取県、沖縄県の選手が演武し、それぞれ 24.3 で終わった。

 続いて四番手に、あかねが登場。

 団体形の時とは違い、小柄な体躯とは思えぬほどの大物オーラを纏って、コートへ入場。


「サンセイリュゥーッ!」


   ・・・・・・すっ  コオォハァァッ!

   すすーっ・・・・・・  シュバシッ!


 下地流をバックボーンとするあかねが演武する形は、三十六歩(サンセイリュー)という形。

 糸恩流や剛道流にも同名の形があるが、指先から全ての筋肉と腱を鍛え上げた、下地流独特の粘りと技を見せるあかね。下地流独自の鍛錬量で、まさに巌も砕く勢いの形だ。

 風が吹き抜けるかのような呼吸音を轟かせ、あかねは息一つ乱さず演武を終えた。


「・・・・・・判定ーっ!」


   ピーッ!  ピッ!


「主審、8.3! 一審、8.3! 二審、8.2! 三審、8.3! 四審、8.1!」


   ・・・・・・ピッ!


「・・・・・・球磨原中学校 鍋島あかね選手、ただいまの得点! 24.8ッ!」

「(やった! どうね? このまま、一位までキープするったい! やったぁ!)」


 0.1の差で小紅を上回る点を出し、現在トップとなったあかね。コートを出て行く際に、嬉しさのあまりに笑みが零れた。

 あかねに点を抜かれた小紅は、胡座をかいたまま唇を尖らせ、やや悔しげな表情。


「ああー。小紅ちゃん、抜かれちゃった・・・・・・」

「小紅センパイのニーパイポのほうが、よかったように見えたのにーぃ」

「優太サンも水穂も、仕方ないよー。審判がそう、判断した結果だもん」


 栃木県陣営では、優太と水穂が、がっかりしている。それを、澪が冷静に宥める。

 現在、四人が演武を終え、あかねが暫定一位。小紅が暫定二位。そして、五番手と六番手では富山県と山形県の選手が演武し、それぞれ 24.4 と 24.2 で終わった。


「ねぇ、はづき? ・・・・・・次は、藤川絢子だね。何やるんだっぺか?」

「たしか、京都の朝香道場は剛道流だよね。だとするとー・・・・・・」


 パンフレットを片手に、試合を見つめる亜弓と葉月。

 視線の先では、大きく返事をして、絢子が気品のある雰囲気を纏ってコートへ入ってゆく。そして、まるで日本舞踊と融合したかのような、優雅な表情で一礼。


「スーパーリンペェーイッ!」


   スッ ハアァーッ・・・・・・

   ギュウッ パァンッ!

   ギュウッ パパァーンッ!


 剛道流の最高峰難度と言われる形、壱百零八歩。

 絢子は団体形の決勝と同じ形を選んだが、シンクロ度を重要視する団体形と違い、緩急を見事に使い分けた技を次々と見せる。ゆっくり動き、優雅に指先までの粘り強さを表現。素速く動くところは、京劇のような激しさで四方八方へ動いてゆく。

 両掌を風車のように回し、攻防一体の技を表現する独特な「回し受け」の力強さは、他の選手を圧倒する演武だ。


「・・・・・・判定ーっ!」


   ピーッ!  ピッ!


「主審、8.3! 一審、8.4! 二審、8.3! 三審、8.3! 四審、8.2!」


   ・・・・・・ピッ!


「・・・・・・平安橘中学校 藤川絢子選手、ただいまの得点! 24.9ッ!」

「(・・・・・・よしッ、やった! 朋子、舞子、光太郎、見てた? これが形の最高峰やよ)」


 八人中七人目の演武にして、高得点を叩き出した絢子。あかねと小紅を一気に抜いて、一気に暫定一位へと躍り出た。


「(なっ・・・・・・なんちゅうこったい! くっそー。ここで抜かれるとは、悔しかーっ)」

「(このレベルで七人目じゃ、この点数はしゃーないな。印象度が違うもんなー)」


 絢子の点数を見て表情を変えた、あかねと小紅。その前を、余裕の表情で歩き、戻ってゆく絢子。「どうや?」と言わんばかりの、柔らかくも強い闘志を秘めた顔だ。

 そして最後。八番手に、みかんが登場。栃木県陣営からは、入場するみかんへ大きな声援が飛ぶ。小紅も、眉をぴくりと一度だけ動かし、無言でみかんの姿を見つめている。

 きりっとした黒い瞳を輝かせ、みかんが一礼。そして、腕を交差して十字に切ってゆっくり構えた。


「ウンスゥーーーーーッ!」


   ・・・・・・すっ

   シュバッ! パシィン!

   すぅ  シュババッ!

   すぅ  シュババッ!


 みかんは松楓館流の形でもかなり難易度の高い、雲手(ウンスー)を演武。

 カミソリが高速で動いているかのような、みかんの形。突きも蹴りも受けも、精密機械のような正確性で、次々と空間を切り裂き、仮想の敵を薙ぎ倒していく印象だ。

 寝そべっての蹴り、腰を落とした位置からの突き、力強い膝砕きに、ダイナミックな跳び回転蹴りなど、アクション映画さながらの形は、館内の観衆を驚かせた。


   ワアアアアアアアアアアアアアアアッ

   パチパチパチパチパチパチパチパチ!


 演武を終えたみかんの形に、自然と観客たちから声援や拍手が沸き起こった。


「・・・・・・判定ーっ!」


   ピーッ!  ピッ!


「主審、8.4! 一審、8.4! 二審、8.5! 三審、8.4! 四審、8.3!」


   ・・・・・・ピッ!


「・・・・・・宇河二中学校 安藤みかん選手、ただいまの得点! 25.2ッ!」

「(やった! やったーっ! お姉ちゃん! お母さん! 先生! 私、やったよ!)」

「「「「「 ・・・・・・はぁーーーーーっ・・・・・・ 」」」」」


 みかんの点数は今大会の最高点をマーク。この瞬間、みかんの優勝が決まり、絢子、あかね、小紅は自動的にランクがダウン。他の選手たちからは、何とも言えない声が漏れた。

 このハイレベルな形の試合を、葉月たちは「参った」という顔で結果を見つめていた。


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!

   パチパチパチパチパチパチパチパチ!

   パチパチパチパチパチパチパチパチ!

   パチパチパチパチパチパチパチパチ!


 館内に響き渡る拍手の音。

 みかんの優勝を讃える拍手の中に、翔平たちの音も混ざっていた。


「いやぁー、すげぇなぁ! 葉月の形も毎朝見てたけど、あの子もすごい!」


 翔平は、葉月と一緒に拍手をしながら、思わず唸る。


「安藤みかんさん、か・・・・・・。すごいキレの形だったなぁ。組手も強そうだわ!」

「でも葉月なら、大丈夫だろ?」

「がんばる! 負けらんないよ。だって、今日こそは優勝しなきゃだめだもんね」

「茨城一の空手少女だもんね、すずっちは! お隣の栃木に負けちゃ、やだよ?」

「安心して、和花子! わたしは誰にも負けないよ。昨日の自分を超えるんだ!」

「それでこそ、すずっちだよね! ファイトっ!」


 和花子はガッツポーズを見せ、それに対して葉月も親指をぐっと立てて応える。


「それにしても、ハイレベルな試合だったっぺ、個人形は。すごすぎるよー」

「ほんとだよね、あゆ。私やはーちゃんでも、思わず魅入っちゃうほどだったもん」

「はづきの形もすごいんだけど、今日の四人は別格だっぺね。ほんと、すごいわー」


 亜弓は飲み物を手に持ち、りんと驚きの表情をしたまま。葉月も、香夏子や和花子、そして翔平と話しながら、コート脇に佇むみかん、絢子、あかね、小紅の四人を笑顔で見つめている。


   わあああああああああっ! がやがやがやがや


「うわぁお! やった! すごいすごい! みかん、日本一じゃん!」


 栃木県陣営の観覧席では、みかんの姉であるくるみが、インスタントカメラを片手に大はしゃぎ。周囲に座る紅一や雪子、美穂子、晶子などは、夏江に「おめでとうございます」と言って拍手をしている。


「すごーっ! 小紅センパイは惜しかったけど、これは、納得の上位三人だねー」

「ウンスー、スーパーリンペイ、サンセイリュー・・・・・・どれもすごかったね!」

「だね! 私、早く小紅センパイに、道場でニーパイポ教わりたいなー」

「わたしもー。水穂と一緒に形を磨いて、技術力を分析して、レベル上げたいな」


 水穂と澪も、個人形の決勝戦を見て興奮が冷めやらない様子。隣では、優太がツヤと話しながら「すごかったね」「そうですねー」と談笑している。

 試合を終えたみかんたちは、それぞれの陣営に向かって、ぺこりと頭を下げていた。

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[気になる点] 初めて読みましたが、これはルールが私の知る空手と違うのですが、作品オリジナルルールなのでしょうか? 次のような部分が気になりました。 1.組手に「有効」がないのはなぜ 2.組手で「先…
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