83、中堅戦の結果やいかに
ドドドンドドドンッ! ズババババッ!
ひょい ひょいひょいっ
ドドドドドドッ! バシュバシュバシュッ!
ひらり ひょいひょいっ
「(なんで、いきなりそんなに逃げ回ってんだっぺか。やる気無いのっ?)」
亜弓が突進しながら放つ左右の突き。しかし、その勢いをうまく殺しながら、澪は舞踊のような体捌きを駆使し、躱し続ける。
「・・・・・・せやーーーーっ!」
シュパパッ! パパァンパパァン!
「(うわっ、と! 何だっぺか、この軽い突きは! 技を取る気あんのかな?)」
躱しながら、澪は時々、上段突きと中段突きのワンツー攻撃を亜弓に放つ。しかしそれは、亜弓の突きに比べればとんでもなく軽い技だった。
ジリン! ジリリィーンッ!
―――「あと、しばらくっ!」―――
「あゆーっ、無理しないで! このまま待ってれば、引き分けだよ!」
「りんー。亜弓が待てない性格なのは知ってるけど、なーんか不可解じゃない?」
「え? はーちゃん、なにが?」
「あの篠原澪って二年生は、なんで途中から守り側に徹してるんだろう・・・・・・」
「そりゃー、あゆの攻撃に恐れをなして、戦意喪失なんじゃないー?」
「でも、それにしては、たまに仕掛けてくるんだよね。やったら軽い技だけど」
「うーん・・・・・・。でも、あゆの連打なら、勝てるよきっと!」
「うん。そう信じて応援したいけど、ちょこっと引っかかっててさー・・・・・・」
亜弓をひたすら応援するりんの横で、葉月は首を傾げていた。
なぜ、澪が急に防御一辺倒になったのか。なぜ、仕掛けるにしても、軽すぎる攻撃なのか。そこが、葉月はモヤモヤしているようだ。
「あゆーっ、時間、もうあと少し! 十秒くらいだよ!」
「・・・・・・あ! も、もしかして! あ、亜弓ーっ・・・・・・」
「うっしゃーーーーーーーっ!」
葉月は、ぽんっと手を叩き、何か大事なことを気づいたような表情に。
その時、亜弓は、澪に向かって大きく踏み込み、既に両拳の突きを放ったところだった。
・・・・・・しゃしゃっ! パッカァーーーーンッ!
・・・・・・ばばっ!
「「 ああぁーーーーっ・・・・・・ 」」
「「 やったぁーーーーーっ! 」」
館内に、高く乾いた音が響き渡り、副審が白旗を高々と真上へ指し示している。
葉月とりんの驚愕、小紅と水穂の驚喜が、同時に大きな声となって天井に跳ね返った。
ワアアアアアアアーッ! ワアアアアアアアアアアーッ!
「「「「「 ナーイス一本! みーおっ! みーおっ! 」」」」」
「白、上段蹴り、一本ーっ!」
「・・・・・・ふぅー・・・・・・。よぉっしゃーーーっ!」
「(はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。やっちゃった! まずかっぺ!)」
赤の開始線で、亜弓は膝に手をつき、がくりと項垂れた。
それに対して、澪は両拳をぐうっと握りしめ、真上を向いて大きく叫んでいた。
「うひょーっ! やったやったやった! ミオが叫ぶなんて、レアだーっ!」
「ふふっ。練習したとおり、できたじゃん。澪の粘り勝ちってとこだね」
沸きに沸く栃木県勢。対して、茨城県勢は勢いが削がれてしまった。
「やられた! やっぱりこれを狙ってたのか! くーっ、やられたなぁ!」
「あゆの突進を、逆に利用されたぁ! あゆの攻めが直線的だから・・・・・・」
「躱すフリをして、相手は斜め横から上段への蹴りを決められたんだ!」
「両手で突っ込んでるから、あゆの横は、がら空きだった・・・・・・」
「そういうこと。見て、りん? 恐らく、この作戦を指示したのは・・・・・・」
「あ!」
葉月とりんは、開始線に立つ亜弓のさらに奥へ焦点を合わせた。そこには、どかりと胡座をかいて腕組みをし、にやっと笑っている小紅がいた。
「小紅が、亜弓の性質を見抜いて指示したんだ。すごい。抜け目ないなぁ!」
「それを忠実にこなした、あの二年生もすごいね」
「柏沼北中は、わたしたちが思ってた以上のハイレベルな相手だわ!」
葉月とりんが話しているうちに、試合は進んでゆく。現在、2対4で澪がリード。
亜弓は、残り僅かの時間で追いつこうと、「こんちくしょー」と果敢に攻め込んでいる。
ドドドドドンッ! バシイッ!
・・・・・・ばばっ!
ジリリリィーンッ! ジリンジリリィーンッ!
「止め! 赤、上段突き、技有り! ・・・・・・それまで!」
最後の攻めを見せた、亜弓。時間終了ギリギリのところで、やぶれかぶれで放った突きが決まり、3対4。しかし、無情にも中堅戦は終了。亜弓は逆転かなわず、敗れてしまった。栃木県陣営では、澪の母が大きく拍手をしながら、娘に向かって手を振っている。
「白の、勝ち!」
かぽっ・・・・・・ ぺこり
亜弓はメンホーをはずし、ゆっくりと一礼。項垂れて、葉月とりんのもとへ戻ってきた。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。く、悔しい! あーっ! ごめんよぉ、二人ともー・・・・・・」
亜弓の目には、水滴がいくつも浮かび上がっている。それが汗か、涙かは、わからない。
葉月とりんは、亜弓の肩を叩き「ドンマイ!」「ナイスファイトだよ」と慰めている。
「・・・・・・く、草笛が中堅を落とすなんて。あと、残ったのは葉月だけか!」
「ショウ! これ、勝敗はどーなるんだ! あの可愛い子と鈴鹿のバトルかよぉ!」
「知らねぇよ! でも、葉月ならきっと、やってくれる! みんなで声を出そうぜ!」
「そ、そうだね! 大荒井中、ファイトだぁーっ!」
「がんばれぇーーっ! 大荒井中ーーーーっ!」
「いっけぇ、すずっち! がんばってぇーーーっ!」
「鈴鹿さん、ファイトーッ!」
剣道部のみならず、美術部の和花子と耕也も、運動部ばりの声を張り上げている。
商店街のメンバーも、まるでプロ野球観戦でもあるかのように、パンフレットを丸めた簡易メガホンで叫んだり、タオルや手ぬぐいを回して応援。
ざわざわざわざわざわざわ
ワアアアアアアアアアアアアアアア
「やったじゃーん、ミオ! すごいすごい! 見事な蹴りだったねーっ!」
水穂が、試合を終えて汗を拭う澪に抱きつく。小紅は、メンホーをがしっと掴み、大将戦の準備に入っている。
「小紅サンと隠れて特訓した成果です。わたし、蹴り技は苦手だったのに・・・・・・」
「あたしとの稽古、役に立ったでしょ。努力は自分を裏切らないもんだよ」
「はい! そうですね! ・・・・・・上段蹴り、気持ちよかったーっ!」
はしゃぐ澪と水穂の笑顔を見て、小紅はクールに、ふっと笑う。
「・・・・・・さぁて、あたしが決めるとするか! よーく見てなね、水穂も澪も!」
小紅は「はい」と応える後輩二人の頭を撫で、帯をぱんと鳴らし、きつく締め直した。




