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潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第13章  中学女子空手界、第一次頂上決戦! 
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83/128

83、中堅戦の結果やいかに

   ドドドンドドドンッ!  ズババババッ!

   ひょい ひょいひょいっ

   ドドドドドドッ!  バシュバシュバシュッ! 

   ひらり ひょいひょいっ


「(なんで、いきなりそんなに逃げ回ってんだっぺか。やる気無いのっ?)」


 亜弓が突進しながら放つ左右の突き。しかし、その勢いをうまく殺しながら、澪は舞踊のような体捌きを駆使し、躱し続ける。


「・・・・・・せやーーーーっ!」


   シュパパッ!  パパァンパパァン!


「(うわっ、と! 何だっぺか、この軽い突きは! 技を取る気あんのかな?)」


 躱しながら、澪は時々、上段突きと中段突きのワンツー攻撃を亜弓に放つ。しかしそれは、亜弓の突きに比べればとんでもなく軽い技だった。


   ジリン! ジリリィーンッ!


 ―――「あと、しばらくっ!」―――


「あゆーっ、無理しないで! このまま待ってれば、引き分けだよ!」

「りんー。亜弓が待てない性格なのは知ってるけど、なーんか不可解じゃない?」

「え? はーちゃん、なにが?」

「あの篠原澪って二年生は、なんで途中から守り側に徹してるんだろう・・・・・・」

「そりゃー、あゆの攻撃に恐れをなして、戦意喪失なんじゃないー?」

「でも、それにしては、たまに仕掛けてくるんだよね。やったら軽い技だけど」

「うーん・・・・・・。でも、あゆの連打なら、勝てるよきっと!」

「うん。そう信じて応援したいけど、ちょこっと引っかかっててさー・・・・・・」


 亜弓をひたすら応援するりんの横で、葉月は首を傾げていた。

 なぜ、澪が急に防御一辺倒になったのか。なぜ、仕掛けるにしても、軽すぎる攻撃なのか。そこが、葉月はモヤモヤしているようだ。


「あゆーっ、時間、もうあと少し! 十秒くらいだよ!」

「・・・・・・あ! も、もしかして! あ、亜弓ーっ・・・・・・」

「うっしゃーーーーーーーっ!」


 葉月は、ぽんっと手を叩き、何か大事なことを気づいたような表情に。

 その時、亜弓は、澪に向かって大きく踏み込み、既に両拳の突きを放ったところだった。


   ・・・・・・しゃしゃっ!  パッカァーーーーンッ!

   ・・・・・・ばばっ!


「「 ああぁーーーーっ・・・・・・ 」」

「「 やったぁーーーーーっ! 」」


 館内に、高く乾いた音が響き渡り、副審が白旗を高々と真上へ指し示している。

 葉月とりんの驚愕、小紅と水穂の驚喜が、同時に大きな声となって天井に跳ね返った。


   ワアアアアアアアーッ!  ワアアアアアアアアアアーッ!


「「「「「 ナーイス一本! みーおっ! みーおっ! 」」」」」

「白、上段蹴り、一本ーっ!」

「・・・・・・ふぅー・・・・・・。よぉっしゃーーーっ!」

「(はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。やっちゃった! まずかっぺ!)」


 赤の開始線で、亜弓は膝に手をつき、がくりと項垂れた。

 それに対して、澪は両拳をぐうっと握りしめ、真上を向いて大きく叫んでいた。


「うひょーっ! やったやったやった! ミオが叫ぶなんて、レアだーっ!」

「ふふっ。練習したとおり、できたじゃん。澪の粘り勝ちってとこだね」


 沸きに沸く栃木県勢。対して、茨城県勢は勢いが削がれてしまった。


「やられた! やっぱりこれを狙ってたのか! くーっ、やられたなぁ!」

「あゆの突進を、逆に利用されたぁ! あゆの攻めが直線的だから・・・・・・」

「躱すフリをして、相手は斜め横から上段への蹴りを決められたんだ!」

「両手で突っ込んでるから、あゆの横は、がら空きだった・・・・・・」

「そういうこと。見て、りん? 恐らく、この作戦を指示したのは・・・・・・」

「あ!」


 葉月とりんは、開始線に立つ亜弓のさらに奥へ焦点を合わせた。そこには、どかりと胡座をかいて腕組みをし、にやっと笑っている小紅がいた。


「小紅が、亜弓の性質を見抜いて指示したんだ。すごい。抜け目ないなぁ!」

「それを忠実にこなした、あの二年生もすごいね」

「柏沼北中は、わたしたちが思ってた以上のハイレベルな相手だわ!」


 葉月とりんが話しているうちに、試合は進んでゆく。現在、2対4で澪がリード。

 亜弓は、残り僅かの時間で追いつこうと、「こんちくしょー」と果敢に攻め込んでいる。


   ドドドドドンッ!  バシイッ!  

   ・・・・・・ばばっ!

   ジリリリィーンッ! ジリンジリリィーンッ!


「止め! 赤、上段突き、技有り! ・・・・・・それまで!」


 最後の攻めを見せた、亜弓。時間終了ギリギリのところで、やぶれかぶれで放った突きが決まり、3対4。しかし、無情にも中堅戦は終了。亜弓は逆転かなわず、敗れてしまった。栃木県陣営では、澪の母が大きく拍手をしながら、娘に向かって手を振っている。


「白の、勝ち!」


   かぽっ・・・・・・  ぺこり


 亜弓はメンホーをはずし、ゆっくりと一礼。項垂れて、葉月とりんのもとへ戻ってきた。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。く、悔しい! あーっ! ごめんよぉ、二人ともー・・・・・・」


 亜弓の目には、水滴がいくつも浮かび上がっている。それが汗か、涙かは、わからない。

 葉月とりんは、亜弓の肩を叩き「ドンマイ!」「ナイスファイトだよ」と慰めている。


「・・・・・・く、草笛が中堅を落とすなんて。あと、残ったのは葉月だけか!」

「ショウ! これ、勝敗はどーなるんだ! あの可愛い子と鈴鹿のバトルかよぉ!」

「知らねぇよ! でも、葉月ならきっと、やってくれる! みんなで声を出そうぜ!」

「そ、そうだね! 大荒井中、ファイトだぁーっ!」

「がんばれぇーーっ! 大荒井中ーーーーっ!」

「いっけぇ、すずっち! がんばってぇーーーっ!」

「鈴鹿さん、ファイトーッ!」


 剣道部のみならず、美術部の和花子と耕也も、運動部ばりの声を張り上げている。

 商店街のメンバーも、まるでプロ野球観戦でもあるかのように、パンフレットを丸めた簡易メガホンで叫んだり、タオルや手ぬぐいを回して応援。


   ざわざわざわざわざわざわ

   ワアアアアアアアアアアアアアアア


「やったじゃーん、ミオ! すごいすごい! 見事な蹴りだったねーっ!」


 水穂が、試合を終えて汗を拭う澪に抱きつく。小紅は、メンホーをがしっと掴み、大将戦の準備に入っている。


「小紅サンと隠れて特訓した成果です。わたし、蹴り技は苦手だったのに・・・・・・」

「あたしとの稽古、役に立ったでしょ。努力は自分を裏切らないもんだよ」

「はい! そうですね! ・・・・・・上段蹴り、気持ちよかったーっ!」


 はしゃぐ澪と水穂の笑顔を見て、小紅はクールに、ふっと笑う。


「・・・・・・さぁて、あたしが決めるとするか! よーく見てなね、水穂も澪も!」


 小紅は「はい」と応える後輩二人の頭を撫で、帯をぱんと鳴らし、きつく締め直した。

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