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潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第3章 葉月と翔平が決めたこと
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8、ほのぼの美術部

   カキイィーンッ  ダダダダダ  パシュッ パァン ザシューッ


「まわれまわれーっ! ショート! ゲッツーッ! ホームに返せーっ!」


 校庭に響く金属音。白球を受けるグラブの音。照りつける太陽の下で、野球部が必死に汗と砂ぼこりまみれになって練習をしている。


   しゃっ しゃしゃしゃしゃっ・・・・・・

   しゃかしゃかしゃか・・・・・・


 野球の音を聞きながら、スケッチブックに鉛筆をひたすら走らせる、りん。まっさらな紙の上に、薄墨色の線が次々と引かれてゆく。それは次第に、形となってゆく。


「できたぁ! うーん。・・・・・・傑作だ、うん! ・・・・・・ねぇ、はーちゃん! 見てー」


 りんは、満面の笑顔で、くるっと返して葉月にそれを見せる。


「わぁ! りんにしては、すっごく上手じゃない? えー、すごい!」

「なになに? りん、できたの?」


 亜弓も隣の机から身を乗り出し、りんの描いたものを葉月と見つめる。


「おおお! ほんとだ。りんの絵とは思えない! よーく描けてっぺな!」

「でしょ! どぉだ! 今日は私、絶好調かもねーっ! いえーい!」


 大荒井中学校の一階には、一番奥に美術室がある。そこで葉月たちは、部活動に勤しんでいる。今日の活動は、近くにあるものを自由に選んで描き写す「静物画」のようだ。

 窓を全開にした室内には海から潮風が吹き、そよりそよりと、何とも言えぬ心地よさ。

 一年生から三年生まで合わせて、美術部員は七名ほどしかいない。みんな、和気藹々とアットホームな雰囲気の中で活動している。


「あら、島村さん。もう描けたの? どぉれー、先生に見してみーっ!」

「見て、ハナチャン! これなら、美術を『5』につけ直してもいーんじゃない?」


 顧問の花畑先生は、りんのスケッチブックを手に取り、じっくりと見つめる。


「うーん・・・・・・。・・・・・・んん? ・・・・・・ううーむ・・・・・・」


 悩んだような、困ったような、複雑な表情の花畑先生。


「どうしたんですか、咲子先生? ・・・・・・島村の絵、ですか」


 花畑先生の横からひょっこり顔を出したのは、美術部部長の風間耕也(かざまこうや)。りんと同じ三年二組で、部では唯一の男子生徒だ。


「・・・・・・こ、これは! ・・・・・・ふーん・・・・・・」

「・・・・・・ね? 風間君も、これは、うなるよね? ・・・・・・どう見ようかねー?」

「えへん! 私の自信作です! どうでしょうかー?」


 りんは、黒髪をさあっと靡かせ、得意気な顔。


「・・・・・・島村さんさぁ。・・・・・・これは・・・・・・島村さん的に見たヘチマ、かな?」

「僕もそう見える。・・・・・・一応、ヘチマを描いたんだよね?」

「「 え! ええ!? 」」


 葉月と亜弓は、目を大きく見開いて驚く。「なんでよ?」とりんは逆に驚いている。

 二人は「藁づと納豆だと思った!」と、大爆笑。花畑先生と風間は苦笑い。


「はーちゃんもあゆも、私の芸術的なヘチマがわかんないなんてー」

「わっかるわけないよ! どう見たって、藁に包まれた納豆だっぺよ!」

「わたしも、この形と、この縦線・・・・・・。納豆だと思って誉めてたんだけど・・・・・・」

「だめだねー、二人とも! 今日は、ハナチャンがきちんとわかってくれたー」


 りんは、クルクル回って喜んでいる。


「ま、まぁ、先生も頭の中をかなーり回転させまくった結果なんけどさーっ・・・・・・」


 花畑先生は、半ば呆れたような顔で、りんにスケッチブックを返した。


「はづき、よく考えたら、この室内や窓の外には、納豆はなかったね・・・・・・」


 亜弓は、呆れ笑いをしながら、美術室の中を見回している。


「しまっち、まーた面白い絵を描いたのぉー? あははっ! なーにこれぇ!」

「うるさいよ! ワカだって、いつも面白いデッサンばっかりしてんじゃんー」


 りんのことを「しまっち」と呼ぶ少女は、一組の(さい)(とう)()()()。大荒井商店街にある生花店「さいとう」の看板娘で、風紀委員長も務めている。


「わかこは、なに描いたの? ・・・・・・ん? なんだっぺ、こりゃ?」


 亜弓は、和花子の絵を見て、首を傾げる。葉月も一緒に見て、同じく首を傾げた。


「・・・・・・お地蔵さん?」

「なんでそー見えんの、すずっちは! あゆっち共々、想像力が、足りないねー」

「いや、想像も何も、何だかわかんねーっぺよ、これじゃ」

「ふふー。すずっち、あゆっち、しまっちの三人を、見ながら描いたのよー」

「「 え! ええええ? 」」

「いやいやいや! おかしいっぺよ! なんでうち、こんな大仏みたいなのよ!」


 亜弓が、和花子の描いた「亜弓らしきもの」を何度も指差し、わめいている。


「だって、こう見えたんだもの! ちょっと、太く描きすぎたかもだけどー」

「だーめ! 描き直し! うちはこんなに丸々としてねぇっぺよ! だーめ!」


    がしがしがし  がしがしがし


 亜弓は、和花子の描いた「もの」を一部、消しゴムで一気に消してしまった。


「おいおい、お前ら、まじめにやれよー。後輩の手本になんないじゃないかー」


 風間は頭を掻きながら、困り果てている。


「はーい! 描けた人、先生に見せてねーっ! どんどん自信持って描いてーっ」


 花畑先生がパンと手を叩き、元気よく声を出す。一年生も二年生も、「はーい」と返事をし、一生懸命ひたすら絵を描く。そんな中でとりわけ賑やかなのは、三年生だった。

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