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潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第2章 海辺の三人娘
7/128

7、熱い砂浜 煌めく白波

「じゃ、亜弓、りん。また一時に海水浴場でね! ばいばーいっ!」

「エネルギー溜めて、行くね! はーちゃん、あゆ、またねーっ!」

「ガッツリお昼食べて、午後はめいっぱい動こうね! じゃあ、またねーっ!」


 細い路地の交差点で、三人は笑顔で分かれ、それぞれの家へ。


   ・・・・・・タタタタタタタッ


 店先に、「アイナメ鈎あります」「アミコマセ」「エラコ入荷」などが貼られた釣り具屋。

 そこの入口に、勢いよく葉月は駆け込んでいく。


「おかーさぁん! ただいま! 一学期終わったよーっ!」

「おかえりっ、葉月! どーれ、ちゃぶ台に、例のモノ、出しといてぇー?」

「えへ! 見て驚かないでねぇ? びっくりするからね!」


 靴を脱ぎ、葉月はバッグを茶の間に置く。そこから、通知表をちゃぶ台の上に出し、洗面所へ行った。

 睦子は、小さな書斎にある木製の机で、仕入れ表や売り上げの帳簿をまとめている。

 それを止め、茶の間に座って葉月が置いた通知表を、ぺらりと捲る。


「どーれどれ・・・・・・」


 洗面所から、手洗いとうがいを済ませた葉月が戻り、二人で並んで座って通知表を眺める。葉月は、ものすごく得意気な笑顔。睦子は、ふふっと笑いながら、じっくり眺める。


「へぇ。葉月、やるねぇ! お母さんが中三の時より、すごく成績いいじゃないー」

「えへっ! そうでしょう! だってわたし、今学期なかなか頑張ったと思うもん!」

「国語、数学、音楽、技術家庭が『4』、社会、理科、体育、美術が『5』! へぇ!」

「でもさー、英語だけは『3』から上がらないなー。・・・・・・どーもわたし、苦手でさ」

「うーん。お母さんも、そこは苦手だったかなー」

「おとーさんならきっと、『そんなの気にすんな』で終わったよね?」


 葉月は仏壇を見つめて、笑う。睦子も「そうね」と、ふっと笑って仏壇を見る。


   ちく  たく  ちく  たく  ちく  たく・・・・・・


 古めかしい掛け時計が、針の音を鳴らし、時を刻む。二人はまた、通知表を見ながら、いろいろ語り合っている。


「所見欄に、若田先生から『空手の全国大会出場おめでとう』って書いてあるわね!」

「そうなの! 部活ではさ、ハナチャンも『おめでとう』って言ってくれたんだー」

「翔平君たちの剣道部と、葉月たちの空手で、町が盛り上がってるものね」

「てへ! なんか、照れるね。これはなにがなんでも、全国一にならなきゃ!」

「気負いすぎないようにね、葉月? そろそろ文弥も帰ってくるね。お昼にしよう!」

「うん! 午後は、亜弓やりんと、自主トレしたり遊んだりしてくるねっ!」


 その後、文弥が帰宅。通知表を見終え、三人は昼食の「アジ丼」をじっくり味わった。


   ミャァウー・・・・・・ ミウウゥー・・・・・・


 かあっと降り注ぐ陽射しの中を、ウミネコが飛び交っている。


「「「 よぉい・・・・・・スタートっ! 」」」


   だしゅ! だだだだだだだだ!

   ざしゅ! たたたたたたたた!

   だんっ! どだだだだだだだ!


   ざざぁん・・・・・・  さああぁ・・・・・・


   ・・・・・・だだだだだだだだだーっ!


「やったーっ! またわたしが一番ーっ! やっほーっ!」

「はぁ、はぁ・・・・・・。くーっ! まーた、はーちゃんか!」

「だーっ! もぉー。なんでだっぺ! はづき、りん! もう一本やっぺ!」


 延々と白い波が打ち寄せ、真砂を黒く濡らして固める。

 葉月たちは、海水浴場の砂浜で、サンダルを履いてダッシュトレーニング中。

 既に十本目を終え、次で十一本目。だが、何度やっても葉月が一番、りんが二番、亜弓はいつも三番手。

 海水浴に訪れている観光客や、地元のサーファーたちもいる海水浴場。ちびっ子を連れた家族客からは「がんばれー」との声が飛んでくる。


「・・・・・・やったーっ! 一番キープ! いまのはあぶなかったなぁ!」

「あー、くやしい! もうあと少しで勝てたのにー」

「はぁ・・・・・・ふぅ・・・・・・。これは、体重だ! うちはぽっちゃりだから、勝てないんだ」

「そうかなぁ? 亜弓も速いけどな。後ろから迫られると、すごい圧力で恐怖だし」

「あゆの突進プレッシャー、すごいんだもん! 私やはーちゃんには無いものだよ」

「りん。『私やはーちゃんには無いもの』って、やっぱり亜弓の体重じゃん・・・・・・」

「くっそー。勝てなーい! いいやもう。うちは将来、絞って絞って絞りまくる!」


 どさっと大の字になり、息を切らせて砂浜に寝転がる三人。白波の飛沫がぱあっと足元にかかり、真上からは強い日光が降り注ぐ。

 顔も腕も脚も健康的に焼けた三人は、笑い合いながら再び起き上がる。そして、今日最後の砂浜ダッシュをした。最後は、りんが一番、葉月が二番、変わらず亜弓は三番だった。


   ざざぁぁん・・・・・・  ざぱぁ・・・・・・  ささささぁー・・・・・・

     ざざざぁん・・・・・・  ささささぁ・・・・・・


 波打ち際で、白いハマグリの貝殻や割れたカキの貝殻が砂に埋もれ、波に洗われる。

 小さなカニは、穴からせっせと砂の玉を押し出し、またそそくさと巣穴へと戻ってゆく。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。やった! はーちゃんに一本だけ勝ったよぉー」

「ふぅ、ふぅ・・・・・・。りんに負けたーっ! あー、くやしいなーっ!」

「十二連敗っちゃ、なんだっぺーっ! うち、やっぱりスピードじゃかなわないーっ!」


 三人の額や顔からは、大量の汗が滴る。それが砂にぽたりと落ち、海の水と混ざって流れてゆく。


   リンリーン♪  リンリーン♪  リリンリーン♪


 葉月たちの後ろにある道路から、自転車のベルが鳴っている。


「おーい! 三人ともぉ、頑張ってるねー」


 自転車を停め、笑顔で葉月たちに声をかけたのは、大荒井町駐在所に勤務する警察官の磯村(いそむら)純一(じゅんいち)巡査。すらっと背が高く、若くて新婚ホヤホヤで、優しい顔をしたお巡りさん。

 だがこう見えて、磯村巡査は全国警察官剣道大会で第三位に輝いたほどの剣士でもある。


「・・・・・・あ! 磯村さんだぁ! 亜弓、りん、行こっ!」


 三人は起き上がり、砂をさくさくと踏みしめながら、磯村巡査のもとへ向かう。


「パトロールですか、磯村さんっ! ごくろうさまですっ!」


 葉月は、舌をぺろっと出し、笑顔で敬礼のポーズをした。


「うん。ちょうど今、終わって帰るところだね。見てたよー、三人の砂浜ダッシュ!」

「磯村さぁん・・・・・・。どうやったら、はづきたちにダッシュで勝てるんですかぁー?」


 亜弓はヘロヘロになりながら、磯村に泣きついている。


「はは! 何本か見てた限りだと、スタート時に一番速いのは亜弓ちゃんだけどね?」

「そう! そうなんですよ! でも、毎回すぐに、あっけなく二人に抜かれてー」

「亜弓ちゃんは初速がすごいんじゃ、空手の試合でそれを活かせそうじゃないか」

「そうだよ、あゆ! 試合のコートは、数十メートルとかの広さじゃないんだしさ?」

「亜弓、よかったじゃん! 磯村さんの目では、初速は亜弓が一番だってさ!」

「そ、そうかな? あは、あははは! なら、よかっぺ! そんなら、いいわ!」


 亜弓は、三人の顔をきょろきょろ見回し、照れ笑い。


「磯村さん。そういえば明日、剣道部の指導に行くんですか? 翔平から聞きました」

「ショウ君たち、すごく緊張するって言ってましたよー?」

「うん。若田先生や、長谷屋(はせや)校長先生から頼まれてね。偉い先生も一人、来るんだ」

「あ! だからショウ君たち、緊張するって言ってたのかぁー」

「偉い先生ってことは、きっと、剣道範士とかでしょ。そりゃ、翔平も緊張だねー」


 葉月とりんは、磯村巡査と話しこんでいる。亜弓はひとりで、ふくらはぎを揉みながら、何度も蹴りのフォームを黙々と横で繰り返している。


浜崎(はまざき)()兵衛(へえ)っていう、剣道連盟の八段範士なんだ。ぼくも緊張だよー」

「すごい! りん、空手でも八段範士ってさ、全国でもあまりいない高段者だよね!」

「そ、そうだね! すごいな! 剣道部、全国制覇に向けて本気の本気だぁ!」

「だね! うわぁ、これは剣道部、本当に全国一になるんじゃない?」

「すごいすごい! はーちゃん! 私たちも負けてられないね!」

「うん! がんばるぞぉーっ! ・・・・・・ねぇ、亜弓も・・・・・・って、あれ?」


 顔を見合わせて目を輝かせる葉月とりん。磯村巡査と話し込んでいる間、亜弓はひとり、砂浜に戻ってダッシュを繰り返していた。

    

   ・・・・・・ぽこっ  ことん!      

   ・・・・・・ぐいっ  ぽこっ  ことん!


「ねぇ亜弓ー、獲れた?」

「三個かな。はづきは?」

「まだ五個。もっと獲っていかなきゃね」

「うんまいもんなぁ、こいつ! うち、父ちゃんがこれをつまみにするんだよねー」


 干潮時刻。海面が下げ幅いっぱいの時間に、三人は潮だまりで、小さな巻貝を獲っていた。白いバケツに、黒い貝殻をした「シッタカ貝」や「タマキビ」が放り込まれる。

 透き通った緑色の海藻がついた岩場を、滑らないよう器用に移動してゆく葉月たち。

 岩の間に溜まった海水には、小さなウニやトコブシ、アメフラシなどがいる。赤紫色の海藻が水の中でゆらりゆらりと揺れ、その陰には、小さなカニや小魚の姿も見える。


「よいしょっと! ねぇー、りんー? あれ? どこだろう?」

「・・・・・・はーちゃんーっ! あゆーっ! 見て、これーっ! 捕まえたぁ!」


 葉月と亜弓の横にある岩の陰から、りんが叫んでぴょこんと顔を出す。その手には、赤茶色で掌より一回り大きなカニが。


「ショウジンガニだぁ! えー、ずるーい! わたし、さっき逃げられたんだぁ」

「やったー。お味噌汁の具、ゲーット! まだまだ獲ろうっと! カニっ。カニーっ」

「はづきが逃したやつじゃない? それを、きっと、りんが捕まえたんだっぺよ!」

「イェイ! ねぇねぇ。そっちはどうー?」

「ぼちぼちですなぁー。ねぇー、亜弓師匠」

「そうですなぁー。はづき師匠」

「きゃは! なんなのそれぇ! 笑っちゃうじゃーん!」


 岩の上で笑う、りん。葉月と亜弓は、引き続き、貝やカニを探している。


「ひっぺがす道具、持ってくればよかったね。トコブシとかマツバガイ、獲れないわ」

「亜弓の力でも無理か、それは。わたしは、カニ狙いに切り替えようっと!」

「うちは、地道にタマキビやシッタカにすっぺ! さてさて、もっと獲らねばー」


   ・・・・・・ざざざざざあ  どっぱああぁーんっ!


「うひゃあーっ! かぶっちゃったぁーっ!」


 岩の上一面に、大きな白波が被った。葉月や亜弓は、波しぶきを被り、ずぶ濡れに。


「あっぶな! なんとか、バケツは死守したよ亜弓! あれ? りんは?」


   ・・・・・・ざぱんっ! 


「ぷひゅううっ! 波で落とされたぁーっ! ありえないんだけどーっ!」


 浅瀬の海面から顔を出し、塩水を噴きながら髪を両手でかき上げる、りん。葉月と亜弓は、それを見て大笑い。そして、髪を振ってぱあっと飛沫を散らすりんを見て、二人も海に思いっきり飛び込む。磯には三人の笑い声と水の弾ける音が、波音と共に響いていた。

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