54、お見舞いに行こうか
しゃわしゃわしゃわしゃわ・・・・・・ じじじじじじじじじじー
じーわじーわじーわじーわじーわ・・・・・・
「あっちぃなぁー・・・・・・。なんか、午前中なのにやたら暑ぃよなぁー・・・・・・」
「まぁまぁ。夏だし、しょうがないよ。勝男だけでなく、誰だって暑いんだしさ」
「ほらー。しっかりしなって、勝チャン! 全国一の剣道部でしょっ!」
「だってよぉー・・・・・・。香夏子だって、汗だくじゃねーかよぉー」
「そりゃ、ワタシだって暑いもん」
「あーあ。早く夏、終わんねーかなぁ・・・・・・」
「文句言わない! 翔チャンの様子を見に行くだけだからさー」
翔平の家に向かって歩いてくるのは、勝男、豊、香夏子の三人。
陽炎が立つ道路を、勝男はまるでナマケモノのような速度で、のたりのたりと歩く。
「あれ? ショウの家に、けっこう人いんぜ? お客さん泊まってんのかー」
「翔平はいるはずだから、とりあえず行ってみようよ」
豊は、暑さで茹だった勝男を香夏子と引っ張りながら、民宿の玄関へ入っていった。
「おはようございます! 翔平、いますかー?」
元気よく、豊が声をかけた。
「・・・・・・ーぃ。今行くよ! 豊かぁ? いま、お客さんいるんで、待ってくれー」
奥の和室から、翔平の声が玄関へ届く。
ぱっと暖簾を手でかき分け、松葉杖を片方ついた翔平が顔を出した。
・・・・・・ことっ ことり
すたっ ことり すたっ
ゆっくりと、一歩一歩、右側を松葉杖で支えて玄関へと歩いてゆく。
「おっす、豊! おお。勝男も宮田も一緒じゃん! どうしたんだー?」
「あれから、足、どうかと思ってね。様子を見に来たんだ」
「ショウ! これ、後輩たちから。『早く良くなって下さい』ってことで」
豊と勝男は、翔平に寄せ書き色紙と、スポーツドリンクのミニボトルを渡す。
「ああ、悪いなぁ! ・・・・・・足はご覧の通りだけど、まぁ心配いらない。大丈夫だ」
「よかったーっ。翔チャン、かなり無理して決勝も戦ってたからさーっ!」
「ははっ! アドレナリンで麻痺してたのかな? 終わったら、一気に痛くなってさ」
「重症じゃないなら、よかったっ! 後輩たちも心配してたよー」
香夏子は、にこっと笑って翔平の松葉杖を眺めている。
ぱさっ ・・・・・・とてとて
「だぁれ? 翔平クンの、お友達ー?」
「剣道部の人、ですかね?」
奥から、水穂と澪が、部屋に戻るために出てきた。
「なんだよ、ショウ! お客さんって、同世代の子かぁーっ!」
「明日からの空手の試合のために、昨日から来てるんだよ。栃木の子たちだよ」
「「「 へーっ。空手のー 」」」
三人は、部屋へ戻ってゆく水穂と澪を見て、意外そうな顔をする。
ぱさっ ・・・・・・ぺたり ぺたり ぺたり・・・・・・
最後に、小紅が髪を指で梳きながら、奥から出てきた。
「ごちそうさま。翔平君、大将の朝食、美味しかったよ。じゃ、あたし部屋に戻るよ」
「あ、わかった。ごゆっくりー」
小紅は、三人と一瞬目が合い、軽く会釈をした。そのまま部屋に入り、襖を閉める。
「んな! な、なななな! ショ、ショウ! おい! やべーよ!」
「なんだよ? あれ? カツオ、一気に顔色が良くなってねーか?」
「今の子も、栃木の空手の子なんかぁ? やべーっ! ひ、一目惚れしたかも!」
「はぁ? ばかじゃないの勝チャン! 暑さで、頭がバグっちゃったんじゃ・・・・・・」
呆れ果てている香夏子。豊と翔平は大笑い。勝男は「なんで?」と首を傾げていた。




