5、組み合わせ表、届く!
「文弥、もう行くよー? 亜弓がそろそろ来ちゃうからさー?」
「まって、姉ちゃん。・・・・・・あれぇ? 防具がないー」
「階段のとこに、放り投がってんじゃないの? 早くしなよー」
葉月は、スポーツバッグを肩に抱え、真っ白な道着姿でサンダルを履いている。
文弥は、慌てて防具のバッグを探している。
「まったくぅ。文弥? 葉月を見習いな。だらしなくしてるからよ?」
「わかってるよー。・・・・・・あれー、ほんと、どこだぁ?」
「・・・・・・こんばんはぁ。はづき、行こうー? あれ? どしたの?」
同じような道着姿で、亜弓が葉月の家へ訪れた。
「ごめん、亜弓。文弥が防具探しててさー。ちょっと、まってね?」
「・・・・・・あ! あったあった! ごめん、姉ちゃん!」
「よかったね。じゃ、おかーさん、いってくるね!」
「気をつけて。亜弓ちゃん、帰り、ちょっと寄ってって。お父さんにお返しあるから」
「え! いいですよー、そんなぁ」
「いいから、いいから。昨日もらったイシモチを煮付けたから、持ってってね!」
「すみませーん、睦子さぁん。・・・・・・父ちゃん、どんだけ魚を配り歩いてんだか・・・・・・」
「亜弓んちからもらう魚、美味しいから、わたしは大助かりだよー」
雑談をしながら、葉月、亜弓、文弥の三人は、道場へ向かって夜道を歩いていった。
「「「 こんばんは! お願いしまーす! 」」」
五分ほど歩くと、神社の右隣にある古い道場へ着く。さらにその右隣は、りんの家だ。木戸を開け、葉月たちは、元気よく挨拶をして道場へ入っていった。
「待ってたぞぉ! はーちゃんも、あゆも! ねぇねぇ、早く上がって!」
りんが、道着姿で葉月たちを出迎える。奥には小さな和室があり、そこには師範の島村大二郎がどかりと座っている。黒帯は灰色に近いほどに摩り切れ、道着も年季が入っており、ものすごく厳格なオーラを漂わせた老人だ。
「なになに? ねぇ、わたしたち、今着いたばかりなんだけどさー・・・・・・」
葉月は、亜弓たちと履き物を揃え、板の間に上がる。
「これこれ! 今日、うちに届いてたんだよーっ!」
りんが、島村師範から茶封筒を受け取り、葉月たちのもとへ持ってきた。おそるおそる、その封を切る、りん。その中から出てきたのは、全国大会の組み合わせ表。
「こ、これって! ついに来たってコトね! うわぁーっ! ね、見てみようよ!」
葉月は、その紙を床に置いて眺める。りん、亜弓、文弥も、興味津々。
『平成9年度 全国中学空手道選手権大会』と書かれた女子団体組手の組み合わせ表。その一番目には、シードで「大荒井中 茨城」という文字が。
全国から集う総数48校でのトーナメントだ。
「そっか。地元代表校だから、一番手エントリーなのか! 目指せ、全国制覇だね!」
葉月は、組み合わせ表を文弥と並んで、まじまじと見つめている。
「個人戦は私たちの他、東京、大阪、京都、沖縄も三人出てる。うーん、燃えるね!」
「東京、大阪、京都は特別枠あるし、沖縄は空手発祥の地だからだっぺね!」
りんと亜弓は、武者震いのようにぶるぶると震え、笑顔で拳を握り合っている。
女子個人組手に出場する三人は、Aブロックの一番目に葉月、Bブロックの左山に亜弓、右山にりんの名前が書かれている。個人組手だけでも、両ブロック合わせて99名という大混戦の様相だ。
「お前たち、さぁ、それは後にして、始めっぺ! ガンガン鍛えっかんな!」
島村師範が、気合いたっぷりではしゃぐ女子三人を、鋭い目で見つめる。
葉月たちは、大きな声で「はい!」と応え、準備運動を各自で念入りに始める。
そして、そこから約二時間、狭い道場内にはずっと大きな気合いが響き渡った。