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潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第1章 潮騒の町
5/128

5、組み合わせ表、届く!

「文弥、もう行くよー? 亜弓がそろそろ来ちゃうからさー?」

「まって、姉ちゃん。・・・・・・あれぇ? 防具がないー」

「階段のとこに、放り投がってんじゃないの? 早くしなよー」


 葉月は、スポーツバッグを肩に抱え、真っ白な道着姿でサンダルを履いている。

 文弥は、慌てて防具のバッグを探している。


「まったくぅ。文弥? 葉月を見習いな。だらしなくしてるからよ?」

「わかってるよー。・・・・・・あれー、ほんと、どこだぁ?」

「・・・・・・こんばんはぁ。はづき、行こうー? あれ? どしたの?」


 同じような道着姿で、亜弓が葉月の家へ訪れた。


「ごめん、亜弓。文弥が防具探しててさー。ちょっと、まってね?」

「・・・・・・あ! あったあった! ごめん、姉ちゃん!」

「よかったね。じゃ、おかーさん、いってくるね!」

「気をつけて。亜弓ちゃん、帰り、ちょっと寄ってって。お父さんにお返しあるから」

「え! いいですよー、そんなぁ」

「いいから、いいから。昨日もらったイシモチを煮付けたから、持ってってね!」

「すみませーん、睦子さぁん。・・・・・・父ちゃん、どんだけ魚を配り歩いてんだか・・・・・・」

「亜弓んちからもらう魚、美味しいから、わたしは大助かりだよー」


 雑談をしながら、葉月、亜弓、文弥の三人は、道場へ向かって夜道を歩いていった。

     

「「「 こんばんは! お願いしまーす! 」」」


 五分ほど歩くと、神社の右隣にある古い道場へ着く。さらにその右隣は、りんの家だ。木戸を開け、葉月たちは、元気よく挨拶をして道場へ入っていった。


「待ってたぞぉ! はーちゃんも、あゆも! ねぇねぇ、早く上がって!」


 りんが、道着姿で葉月たちを出迎える。奥には小さな和室があり、そこには師範の島村大二郎がどかりと座っている。黒帯は灰色に近いほどに摩り切れ、道着も年季が入っており、ものすごく厳格なオーラを漂わせた老人だ。


「なになに? ねぇ、わたしたち、今着いたばかりなんだけどさー・・・・・・」


 葉月は、亜弓たちと履き物を揃え、板の間に上がる。


「これこれ! 今日、うちに届いてたんだよーっ!」


 りんが、島村師範から茶封筒を受け取り、葉月たちのもとへ持ってきた。おそるおそる、その封を切る、りん。その中から出てきたのは、全国大会の組み合わせ表。


「こ、これって! ついに来たってコトね! うわぁーっ! ね、見てみようよ!」


 葉月は、その紙を床に置いて眺める。りん、亜弓、文弥も、興味津々。

 『平成9年度 全国中学空手道選手権大会』と書かれた女子団体組手の組み合わせ表。その一番目には、シードで「大荒井中 茨城」という文字が。

 全国から集う総数48校でのトーナメントだ。


「そっか。地元代表校だから、一番手エントリーなのか! 目指せ、全国制覇だね!」


 葉月は、組み合わせ表を文弥と並んで、まじまじと見つめている。


「個人戦は私たちの他、東京、大阪、京都、沖縄も三人出てる。うーん、燃えるね!」

「東京、大阪、京都は特別枠あるし、沖縄は空手発祥の地だからだっぺね!」


 りんと亜弓は、武者震いのようにぶるぶると震え、笑顔で拳を握り合っている。

 女子個人組手に出場する三人は、Aブロックの一番目に葉月、Bブロックの左山に亜弓、右山にりんの名前が書かれている。個人組手だけでも、両ブロック合わせて99名という大混戦の様相だ。


「お前たち、さぁ、それは後にして、始めっぺ! ガンガン鍛えっかんな!」


 島村師範が、気合いたっぷりではしゃぐ女子三人を、鋭い目で見つめる。

 葉月たちは、大きな声で「はい!」と応え、準備運動を各自で念入りに始める。

 そして、そこから約二時間、狭い道場内にはずっと大きな気合いが響き渡った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 漁師町の風景が、ほのぼのと目に浮かびます! 今回も爽やかな武道少年少女の物語が読めそうですね。 甚九郎さんの描く青春は悲壮感が無くて大好きです。 続きを楽しみにしています!
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