3、剣道少年と空手少女
「「「「「 メエエェーーーン! キイイィィヤアアァーーーーッ! 」」」」」
パパパパァンッ! ドパァァンッ! パアアァンッ!
板の間に響く、乾いた音と、けたたましい気合い。
大荒井中学校の格技場では、剣道部が夏の全国中学大会に向け、朝稽古に励んでいた。
「よーし、小休止だ! 全員、防具を外して、水分補給!」
「「「「「 はーいっ! 」」」」」
葉月のクラスは三年一組。その担任である若田啓介先生が、剣道部顧問。主将の須々木翔平を筆頭に、精悍な顔つきをした男女の部員が汗を滴らせ、水をたくさん飲んでいる。
その様子を、格技場の小窓から、葉月が友達二人と覗き込んでいた。
「あっついねぇ、剣道部! ねぇ、はづき、りん。うちらも、あと一カ月後だよ!」
「そうだね、亜弓! 全国中学空手道選手権、か・・・・・・。よぉし、燃えてきたぁ!」
葉月の右隣にいる大柄な女子は、同じクラスの草笛亜弓。葉月とは、同じ道場で幼少期からの同門生である。
「二人とも、全国は全力出し切って戦おう! 剣道部のエネルギーもらっていこうよ!」
左隣から、葉月の脇腹を肘でつつくのは、隣のクラスの島村りん。町内では「空手の厳しい師範」で有名な島村大二郎師範の孫。艶のある長い髪が特徴的な体育会系女子だ。
整った丸っこい髪形の亜弓に、ショートカットで前髪を左右に割った髪型の葉月、そして女性的な髪形のりんが並んで、剣道部の稽古を見つめている。
「・・・・・・何やってんだよ。そんなところで、三人して?」
翔平が、青いタオルで汗をぬぐいながら、小窓越しに三人へ話しかける。頭に巻いた手ぬぐいは、防具の藍染めが染み移り、うっすらとインディゴブルーに染まっている。
「ショウ君、おっつかれぇ! 燃えてんねぇ、このこのぉ! ほら、はーちゃん!」
りんが、葉月を小突きながら、白い歯を浮かべてにやっと笑う。葉月はその手を払い飛ばしながら、りんの脇腹を肘で小突く。
「来週だかんな、全国! 少しでも稽古量積まないとな!」
「翔平、会場はどこだっけ?」
りんにヘッドロックをかけながら、葉月が問う。翔平は、その様子を見て笑っている。
「東京の、足達区綾畝にある武道館。でっかい会場らしいよ?」
「東京かぁー・・・・・・。こっからじゃ、遠いなぁー」
亜弓が、渋い顔をして空を見上げる。葉月とりんは、間を置いて「遠いね」と呟く。
「うちの学校で、唯一の全国出場の部だもんね、剣道部は。見に行きたいけどなー」
「ねー? りんの言う通り、わたしも翔平の全国大会、見に行きたいよー」
「結果、帰ってきたら教えてやるからさ。空手の全国は、いつだっけ?」
翔平は、スポーツドリンクを飲みながら、葉月たちに聞き返す。
「来月の第一土曜だよっ! 会場は、隣の水都市立武道館! 翔平、ぜひ見に来て?」
「おう、行くよ! 空手の試合、なにげに見るの初めてだしさ! 興味あるんだよ!」
小窓に並ぶ、女子三人の笑顔。葉月はにこっと笑って、翔平と話を続ける。
「ね、翔平? わたし、全国一狙うから! 翔平も全国一目指して、頑張るんだよ?」
「あーあ、いいねぇ、二人は仲がよろしくて! ショウ君! ぜひ見に来てよね!」
「今年は会場が地元の茨城だから、個人戦も、うちら三人揃って出られるからさぁ!」
りんと亜弓は、葉月の頭を撫でながら、翔平に向かって満面の笑みを見せる。
「おーい。休憩終わりだ! よーし、続き始めるぞ! かかり稽古の準備ぃ!」
若田先生の声が響き、翔平は三人にさっと手を振って、また稽古に戻っていった。