29、痛いの痛いの・・・・・・
・・・・・・ズバシャァーーーーーーーッ! ばばばっ!
「白、胴あり! 勝負あり」
パチパチパチパチパチパチパチパチ! パチパチパチパチパチパチパチパチ!
・・・・・・よろろっ とんっ ひょこ ひょこ・・・・・・
翔平の「引き胴」が、相手の右脇腹へ鮮やかに決まった。
斜めに斬り下ろすように放たれた引き胴は、密着した鍔迫り合いの間合いから離れると同時に、まるで三日月のような残像が見えるかのごとき速さだった。
審判三人は、迷うこと無く翔平へ白旗を揚げていた。
「やったやったやったぁ! ショウ君、さっすがぁーっ! 決勝進出だーっ!」
「すごい! はづき。りん。大荒井中剣道部、ほんとに全国制覇すっぺよ、これ!」
「ついに、てっぺんが見えてきた! わたしたちも、決勝はさらに声出さなきゃね!」
「かな! すごいじゃん剣道部! もう、決勝もいけるよねーっ! 全国一とれるね!」
「・・・・・・うん。・・・・・・そうだね」
香夏子は、片眉を曲げ、歓ぶりんの言葉に対し、浮かない声色で答える。
「なぁによぉ? もっと喜んでよ、かな! 同じ剣道部でしょうよー」
りんが笑顔でつついても、香夏子の表情は曇ったまま。
審判からの宣告を受けた翔平は、右足をやや床から浮かして一礼し、コートから出る。
・・・・・・ひょこ ひたり ひょこ ひたり ひょこっ・・・・・・
「え! ねぇ・・・・・・。はーちゃん。あゆ。・・・・・・ショウ君、右足どうしたんだろう!」
「まさか、さっきの試合で何か傷めたのかな? なんか、足取りがおかしかっぺよ」
「翔平っ! ねぇーっ! 何かあったのーっ?」
葉月の叫ぶ声に気づいた翔平は、観覧席の方を見上げた。一瞬間を置き、葉月たちへ向かって、にこっと爽やかな笑顔を見せた。
「翔チャン・・・・・・絶対に足を傷めてる! 笑顔だけど、あれはかなり無理してるよ!」
「え! 足を? 今の試合で?」
葉月は、さっきまでの歓喜の表情から一変。真剣な表情に切り替わった。
「鍔迫り合いの時だね。わざとじゃないだろうけど、相手が翔チャンの足を踏んだの」
「え! 何でショウ君、審判にアピールとかしなかったんだろう?」
「翔平だからだよ、きっと。翔平の中では、それ、武道家の誇りに反するんだよ」
「で、でもこれからまだ、すぐに決勝戦があるのに! ショウ君、大丈夫なのかな」
「(翔平・・・・・・。大丈夫なの? あと一つで全国制覇だけど・・・・・・)」
準決勝を終え、控え室へ戻ってゆく翔平。葉月はその背中を心配そうに見つめていた。会場は、準決勝戦の熱気が冷めやらぬまま、決勝戦に向けての準備が進められている。




