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潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第6章 努力は自分を裏切らない
25/128

25、武道オトメの恋心

   すたすたすた  すたすたすた  すたすたすた


 小走りで観覧席へ戻る葉月。


「・・・・・・ん?」


 武道館内の廊下を進んでゆく途中、何かに気付く葉月。

 それは、視線の先にいる、りんと香夏子だった。自動販売機コーナーへ向かうようだ。


「・・・・・・なぁんだ。かなも、結局そういうことだったのねー」

「まーね。・・・・・・でもなぁー、翔チャンはおそらくー・・・・・・」

「そーだねー。やっぱり、はーちゃん一筋な気がするよね。見ててわかるもんー」

「でも、好きになるのは自由だし。ワタシ、翔チャンをずっと追いかけてきたもん」

「だよねー。私だってずっとショウ君好きだけど、はーちゃんには敵わないしなー」

「まっ、翔チャンはみんなの人気者だけどさ、まだまだ諦めずにいこうよっ」

「だねー。この大会後、ダメ元で、ショウ君に告ってみようかなー」

「あ、ずるい! ワタシだって、りんチャンに先を越されないようにしようっとー」

「かなはいいじゃん。部活も一緒だしさ。・・・・・・ショウ君は、倍率高いよねー」

「まっ、自分を磨きながら、地道に行きましょ」

「これで意外なことに、あゆのことが好きとか言ったら、天地がひっくり返るけどね」

「そ、それはないんじゃないかな・・・・・・」

「わっかんないよぉ? はーちゃんじゃなく、実は、あゆだったりして!」

「あはははは! 亜弓チャンに、それ、言ってみない?」

「だ、だめだよー。あゆがその気になったら、またライバル増えちゃうもん!」

「あはは。・・・・・・そういえば、亜弓チャンは、色恋話あんまりしないよね?」

「そーなのよ。まっ、あゆは空手一筋なのかもね。世界一になりたいって言ってるし」

「亜弓チャンらしいね。そのくらい打ち込めば、本当に世界一になっちゃうかもね」

「ねぇ、かな。あゆが将来世界一になるかどうか、ジュース賭けない?」

「あははは。いいよっ。じゃ、亜弓チャンが世界一になる、に一票!」

「私も、あゆが世界一になる、に一票! ・・・・・・って、賭けになんないね」

「そうだね。でも、大荒井中出身で何かの世界一が出たら、すっごいことだよねー」

「じゃ、あゆに言っておこうかな。世界一になって、大荒井町をPRしてねってさ」

「それ、世界チャンピオンっていうより、やってることは観光大使だねー」

「あ、そうか。じゃ、あゆは世界一の観光大使になってもらえばいいんじゃない?」


 雑談をしながら、りんと香夏子は自販機コーナーへ入っていった。


「(あれは、りんに・・・・・・香夏子? あ、そうか。飲み物でも買いに行くのかな?)」


   すたすたすた  すたすたすた  すたすたすた


 階段を上がって、観覧席へ葉月は戻った。


「おまたせ。ごめんねー」

「電話、つながった? 三回戦が間もなく始まるって、さっきアナウンス入ったよ」

「ほんと? けっこう、進行早いねっ。・・・・・・亜弓ー。りんと香夏子は?」

「飲み物買いに行くってさ。一階へ行ったよ。うちも、暑くてノドがカラカラだっぺ」

「やっぱり、さっきのはりんと香夏子の二人だったんだー。下で見かけたからさ」

「そーかー。なんかね、うちらの分も買ってきてくれるってさ。ありがたいね!」

「あ、そうなの! やった。お礼言わなきゃねー」


 葉月は亜弓の隣に座る。その横には、翔平たち男子部員の荷物が置かれている。


   ・・・・・・チリィーーーーンッ


「ん? 鈴の音? なんだっぺ?」

「あ! これ、翔平のバッグだ。この鈴、付けてくれてるんだぁ!」


 黒いバッグの横に付けてある、潮騒の鈴。

 葉月は翔平のバッグをまじまじと見つめながら、指で鈴を揺らし、鳴らす。


   ・・・・・・チリィーーン  リリィーン  リーン


「いい音色の鈴だね。それ、葉月ちゃんが翔平に渡したのかい?」


 団五郎が後ろの座席から身を乗り出し、葉月が揺らす鈴を見つめている。


「はい。全国制覇のためのお守りに。大荒井町の音がする鈴、ってことで」

「へぇ。いいね。デザインも可愛いね。葉月ちゃんの手作りかい?」

「い、一応。・・・・・・恥ずかしいんですけど。手作りです」

「はづき、いつの間に作ってたの? へー。かわいい。こりゃ、嬉しかっぺね!」


 亜弓も、潮騒の鈴を指でつつき、揺らしている。


「なんか、もっと良い物あげればよかったかなぁって思ってきちゃって」

「いやいやいや。はづきの気持ちがしっかり篭ってる手作りのほうが、よかっぺ」

「そ、そうだよね」

「そうだよ。うちも、トコブシの貝殻でも拾ってきて、作ってあげようかなぁ?」

「え? 亜弓も、誰かにあげるの? いったい、誰に?」

「ふふふー。まだ、秘密だねー。そのうち、はづきにも教えるよ」

「え! ええ! 誰? 誰? あ、わかった。亜弓パパでしょ?」

「違うんだなぁ、それが。父ちゃんには、酒の一升瓶の方がよかっぺ」

「そ、そうか。・・・・・・えー。亜弓が渡す相手、わたしも知ってる人?」

「うん。まぁ、知ってるね」

「わかった! 勝男だ!」

「ちがうーっ! なんで、かつおにお手製の鈴あげなきゃなんないのー」

「じゃあ・・・・・・団五郎おじさんだ!」

「ぶぶー。それは、はづきがもう一個作って、渡してあげなよー」

「ははは。じゃあ葉月ちゃん、そのうち、うちの宿にも一つ、お願いね」

「団五郎おじさんでもないとなるとー・・・・・・えー? 亜弓が渡したい人って・・・・・・」

「まっ、たぶん、当たんなかっぺ! そのうち教えるから、待っててよ」

「亜弓。手作りプレゼント渡したいってことは、その人のこと、好きなのよね?」

「まぁね!」

「亜弓の恋話、今まで聞いたことないからさー」

「うちは、はづきやりんと違って、大っぴらにしないんでねー」

「・・・・・・ま、まさか、翔平ってことはないよね?」

「さぁー? どーだろうね? 剣道って、かっこいいよねー」

「え! しょ、翔平なのぉ! ねぇ、亜弓! ちょっとー・・・・・・」


 亜弓の肩をぐいぐい押す葉月。しかし亜弓は豪快に笑って、葉月を受け流している。


「あはははー。大丈夫だっぺ、はづき! うち、邪魔はしないって!」

「翔平、人気ありすぎだよー。亜弓もなんてー・・・・・・」

「なんか、はづきの中では、そこに決定してるみたいね。でも、どーだろうね?」

「え? 翔平じゃないの?」

「さぁねー」

「だからぁー。もぉー。亜弓ーっ!」

「剣道、かっこよかっぺ。あー、うちも、あの人の真剣な目に、憧れちゃうなー」

「(い、いったい、亜弓の憧れの人って、誰なんだろうー・・・・・・)」


 観覧席でじゃれ合っているうちに、三回戦に進んだ選手たちが各コートへ入場してきた。

 今度の相手校は、沖縄県代表の(なか)恩納(おんな)中。

 並んだ順番は、先鋒が豊、中堅に勝男、そして大将に翔平というオーダーのようだ。


「まぁ、亜弓の色恋話は置いといて、翔平たちを応援しなきゃね!」


 葉月は、背中に白い襷紐をつけた翔平たちを見つめる。

 りんと香夏子も、飲み物を持って戻ってきた。

 大荒井中学校の応援メンバーが再び観覧席に揃ったところで、三回戦が開始した。

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