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潮騒の、すず  作者: 糸東 甚九郎
第5章 精悍な少年剣士、須々木翔平!
20/128

20、葉月は武道が大好きか

   とことこ とことこ 

   たたたっ たたたっ

   どかどかどかどか


「かなり広いね! 他の武道も、今日は何かやってるんだねー」


 きょろきょろと見渡しながら館内を歩く葉月。

 江戸北武道館内には、大武道場の他に、板の間の第一武道場、畳敷きの第二武道場、障子張りの錬成場、屋外の弓道場がある。


「見て、はづき。弓道場だって。窓から見えるよ。弓って、かっけーなぁ!」

「あっちの第一武道場ってとこは、なぎなたの試合もやってるみたいよー?」


 亜弓とりんは、別な武道のかっこよさに見とれて、葉月の後方で足を止めていた。


「弓道部は、わたしたちの学校にはないもんね。大荒井高校にはあるみたいだけどさ」


 葉月も、亜弓たちのところへ戻り、窓から弓道場を眺めている。

 弓道場には袴姿の男性が数人立ち、静かに弓を引き絞っているところだった。


   ・・・・・・ギチンッ  ギイリリリィー・・・・・・  ギィィー・・・・・・


 男性が和弓を高く掲げ、その弦をゆっくりと引き絞ってゆく。


「わぁー。なんか、本当にかっこいいね! わたしたちとは違うタイプの武道だね!」


 葉月は、そのフォームの美しさに、見とれている。


   ・・・・・・ギチリッ・・・・・・  ・・・・・・ギュウッ・・・・・・

   ・・・・・・シュカァァンッ! 

   キイィーーーーーーーンッ!  ドッパァァンッ!


「「「「「 お見事! 」」」」」


 男性が放った矢は、見事、的の中心である「図星」を射貫いた。後ろで控えている人たちから、自然とその射技を讃える声が響く。

 矢を放った男性は、ゆっくりと弓を降ろし、一礼。静かに後ろへ下がっていった。


「・・・・・・まだまだなり。もっと精進が必要なりよ・・・・・・。まだ自分、未熟なり・・・・・・」


 ぼそっと呟き、男性は弓道場の奥へと消えていった。


   ・・・・・・カァァンッ!  キィーーーーンッ!  パーンッ!

   ・・・・・・カァァンッ!  キィーーーーンッ!  タターンッ!

   ・・・・・・カァァンッ!  キィーーーーンッ!  パァーンッ!


 他の男性たちも、次々と矢を放ち、命中させていく。

 葉月たちは、別な武道の稽古風景を見つめ、目を輝かせている。


「へーえっ! かっこいいんだね、弓道も!」

「はーちゃん、あの矢がもし飛んできたら、どーするぅ?」

「え? ・・・・・・こーやって、バシって叩き落とすか、蹴り飛ばす!」

「無理だっぺ! 速いもん! あんなの、避けられたら超人だっぺね!」

「じゃ、わたし、超人目指そうかなーっ! あはははは!」

「はーちゃん! だったら、今の人に、『わたしを射貫いてー』とか言ってきなよー」

「何それーっ! りん! さっきの人が、人間に向かって射るわけないじゃんーっ」

「まるで狩りをする原始人みたいだっぺよ。はづきは、別な人に射貫いてもらえー?」

「やめてよー、亜弓! いきなり何言ってんのよー」

「えー、なにそれぇ? はーちゃん、だーれに射貫いてもらうのかなぁーっ?」

「ちょっとぉ。りんまで、やめなさいってのー」


 りんや亜弓とふざけ合う葉月。ドタバタとロビーの中を走り回っている。

 そこへ、黒い袴をふわっと翻し、誰かが近づいてくる。


   ひたっ・・・・・・  ひたっ・・・・・・  ひたっ・・・・・・


「やっぱり。・・・・・・葉月っ!」

「えっ!? ・・・・・・あーっ! 翔平っ!」

「きゃー。ショウ君! おっつかれさまーっ!」

「いや、まだ試合やってないから、疲れてはいないんだけど・・・・・・」


 葉月たちのところへ近づいてきたのは、翔平、勝男、豊の三人だった。

 剣道着の上に着けた「垂れ」には、三人とも「大荒井中」と刺繍がされている。


「誰かと思ったら、うちの生徒だもんなー。草笛が横にでっけぇから、目立つぜー」

「・・・・・・かつお。また、捻り倒してやろうか?」


 亜弓は、拳をごきんごきんと鳴らし、目をぎらっと輝かせ勝男を睨む。


「じょ、冗談だってばよ! みんな、来てくれたのかー。はははははー」

「三人とも、いつ来たんだ?」


 手ぬぐいを頭に巻いた豊が、りんと葉月に問いかける。


「始発に乗って来たんだよ。朝イチで、出てきたの!」

「翔平たちの応援、めいっぱいするから! 来週、わたしたちの試合も見に来てね!」

「おう、もちろん! まずは俺たちが先に、全国一にならないとな!」

「ショウ! こりゃー、力が湧くな!」

「空手三人娘の応援を受けりゃ、剣道部も気合いが倍掛けだな、翔平!」


 勝男と豊は、翔平が装着している胴をぽんっと叩いて、ふっと笑う。


「絶対に、勝つぜ! 今年の中学剣道日本一は、大荒井中が獲るんだ!」

「「 おおおぉーっ! 」」


 吼える翔平。勝男と豊も、ガッツポーズをして、その場で拳を高く突き上げた。


「うわーっ! いいじゃん! のってるねぇーっ、ショウ君たち!」

「これなら、きっと大丈夫! こうなった翔平は、すごく強いだろうから!」

「種目は違えど、大荒井中の仲間だっぺ! 頑張れ、剣道部!」


 気合いを高める翔平たちの横で、葉月たちもきりっとした目に切り替えていた。


「それで、二回戦からなんだよね? 相手はどんな感じ?」

「おそらく、岐阜の学校が来るな。でも、総合的に俺たちのが上だな」

「そっか。それなら安心。でも、油断はしないでよね?」

「もちろん。さすが葉月だな。いい感じに、気を引き締めてくれるぜ!」

「空手もね、同じだからさ。勝てるはずの相手に苦戦とか、あることだし」

「そうだな。どの相手でも決勝戦だと思って、戦ってくるよ! ありがとな!」

「えへっ! まっ、わたしは翔平の強さを信じてるしーっ! ねっ?」

「あー。はーちゃんばっかり、ずるい! 私も、ショウ君のこと信じてるーっ!」

「なんだよぉー。島村も鈴鹿もショウばっかりー。俺も団体メンバーなんだぜ?」

「じゃあ、かつおはうちが、目一杯かわいがってやっぺ! それでよかっぺ?」

「うわーっ! や、やめろ草笛! お前はお呼びじゃねーっ! 来んなーっ!」

「「「「「 あはははははははは! 」」」」」


 リラックスした雰囲気の葉月たち。翔平たちの試合はついに、眼前に迫ってきた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとも平和な雰囲気ですが、このあと、いよいよ試合になるのですね。 大荒井中が全国制覇できるか、楽しみです! [気になる点] ひとつ、気になることが。 弓道場のシーンで、この弓の効果音と…
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